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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2001年2月号

世界一の食料輸入大国・日本の食料を考える

内外食料経済研究会 代表 山地 進


 農産物貿易のルールをどう改定するかという、大がかりな国際農業交渉が、スイス・ジュネーブに本部のある「世界貿易機関」(英名の頭文字をとって「WTO」)で、昨年から始まっている。
 昨年三月から同十一月までの予備的な交渉を経て、各国が自国の提案を昨年末までにWTOに提出したので、今年四月以降は、それをめぐって、実際にどんな順序、方法で交渉を進めていくか、いよいよ交渉が本格化する情勢である。
 ただ、多少とも交渉が軌道に乗っているのは、サービス貿易部門(金融、保険、航空など)と、農業だけで、それ以外の鉱工業製品を扱う、いわば本隊の方は、一昨年十二月、米シアトル市で開かれたWTOの閣僚会議が、米国のNGO(非政府団体)や発展途上国の反対などで、スタートラインにつけないままの状態である。
 WTOは、シアトルの会合で、「ウルグアイ・ラウンド」(一九八六〜九四年)と同様の、多角的貿易交渉(「ラウンド」)を立ち上げようとしたわけだが、記憶されているひとも多いと思うが、全米のNGOが反対に回って、立ち上げに失敗し、結局、前のラウンドで、交渉の継続を約束していた農業とサービスだけが、それに基づいて交渉を始めているわけである。
 その間に、米国では激烈な選挙戦の末に、共和党のブッシュ政権が誕生した。閣僚には有能な実務家を揃えたという評判だが、こまかい戦略・戦術を決めて動き出すまでにはどうしても時間がかかる。
 シアトルの次の閣僚会議が今年秋に開かれるので、全体の立ち上げは、その後という見方もある。わが国は、農業分野だけを先行して交渉結果を出すことに反対し、新ラウンド全体が妥結するとき、農業も合流していくことを主張している。この点、米国、カナダ、豪州などは農業分野の先行を主張しているから、これがどう影響してくるか、予断は難しい。
 ところで、交渉がどう展開するかはともかく、本稿では、第一に、わが国は世界切っての「食料輸入大国」であること、第二に、わけてもアメリカからの輸入が多く、極めて高い依存度を示している品目があること(下の表を参照)、第三は、そういう状況ではあるが、総理府の世論調査では、国民の大多数が、食料安全保障について強い関心をもっていることなど、交渉の背景にある基本的な事項について説明したい。
 わが国が世界の中でも際立って大きい「食料輸入大国」であることは、マスコミ報道によって、徐々にではあるが、多くの人に認識されるようになってきた。「天ぷらそば」を例にした説明などは、その代表例であろう。
 だが、数年前、コメの自由化が問題になっていたころ、コメの一〇〇%自給という現実に引っ張られて、「食料輸入小国」というイメージをもつひとが多かった。その後、認識は相当に改まったが、もっと方法をも研究して、できれば義務教育の段階から、刷り込ませていく必要がある。その方が、コメのように、守り抜くべきものに対する姿勢も、しっかり身につくと、私は考えている。
 数値によってみると、石油危機直前の一九七〇年と世紀末の九八年を比較すると、全体の輸入数量は約三倍の増加だが、個別にみると、肉類は十四倍、野菜は十倍、果実は四倍、小麦、とうもろこし、こうりゃんなどの穀物は二倍というふえ方である。
 加工度別には、穀類のような未加工品が減って、加工食品(あられ、ハム、チョコレートなど)と生鮮食品(生鮮の野菜、果実、冷凍・冷蔵の肉類)の比率が高まっている。
 「大国」度を端的に示すものとして、世界の輸入額全体の中で占めるわが国のシェアがある。人口は世界の二・二%だが、農産物は世界三千三百三十四億ドルのうち、三百八十二億ドル、一一・四%を占めている。以下、比率のみでみると、小麦は七・四%、とうもろこしは二四・三%、大豆は一五・二%。肉類は二六・四%。とうもろこしと肉類は、四トン動くうちの一トンは日本向けだ。
 「純輸入額」という点でも、九七年は三百六十六億ドルで、二位のドイツの百六十七億ドルを大きく離して一位だ。これは、輸入額から輸出額を引いたもので、あとにロシア、英、伊、韓国、香港、サウジアラビア、エジプトが並ぶ。ドイツとの違いは、ドイツは輸入額も多いが、輸出額も多いのに対し、わが国はみじめなほど、輸出が少ないということ。
 わが国の食料自給率が、カロリーベースで、わずか四〇%しかなく、からだの半分以上、六〇%までが外国から輸入された食料で供給されているというのも、結局、農産物貿易の国際ルール(WTOおよび、その前身のガット)が輸出国の利益に偏り、自然条件の不利が競争力に直接反映しているためである。むろん、農業側もコスト低減に一層の努力が必要だが、いまや、「ルール」にも異議を唱え、輸出国と輸入国の間の真の平等互恵の基盤をつくり、まさに日本提案のいう、「多様な農業の共存」を実現しなければならない。
 第二の農産物輸入の米国への依存度の高さである。下の表は、九七年輸入額の順に並べたものだが、遺伝子組み替えとうもろこしが混入しているかどうかの検査手数料(トン当たり約五ドル)を日本側が支払わされるに至ったことも、ほかに有力な競合国が見当たらず、いわばなめられていると見るほかない。食卓のお皿と、この表の品目とをよく見比べてほしいものである。
 「農産物」全体の輸入額(九七年四兆七千億円)のうち、アメリカは三八・二%(一兆八千億円)を占める。二位は中国九・三%、豪五・三%、加五・二%の順。
 第三の総理府の「農産物貿易の世論調査」では、七八%が「わが国の将来の食料供給に不安」、八四%が「コスト低減に努め国内生産した方がよい」、六五%が「農業は自然環境の保全に役立っている」、七九%が「食料安全保障は確保されるべき」、七〇%が「輸出入国間のバランスをとるべき」ことに、それぞれ賛成している。二〇〇〇年七月、五千人を対象に、有効回収数三千五百七十人について調査したもの。交渉団の奮闘を期待したい。

米国からの主要農産物輸入実績(1997年金額上位15品目)単位:100万円

順位 品目 米国 世界計 米国のシェア
数量(トン) 金 額 数量(トン) 金 額 数量(%) 金額(%)
1 とうもろこし 15,265,931 280,267 16,097,484 295,855 94.8 94.7
2 たばこ 118,401 259,087 176,295 302,049 67.2 85.8
3 牛肉 307,468 186,160 649,065 316,720 47.4 58.8
4 大豆 3,891,332 160,876 5,056,935 211,781 77.0 76.0
5 豚肉 137,041 94,412 511,828 325,613 26.8 29.0
6 小麦 3,432,770 84,529 6,315,254 164,721 54.4 51.3
7 牛の臓器・舌 85,359 44,480 102,606 50,513 83.2 88.1
8 グレーンソルガム 2,229,242 39,631 2,781,417 47,947 80.1 82.7
9 冷凍野菜 280,782 36,229 573,348 87,808 49.0 41.3
10 綿 149,199 34,421 326,117 69,185 45.8 49.8
11 ペットフード 170,260 27,204 435,661 73,263 39.1 37.1
12 生鮮野菜 210,078 24,697 537,385 94,331 39.1 26.2
13 グレープフルーツ 222,398 24,680 283,773 31,124 78.4 79.3
14 アルコール飲料 130,724 23,673 470,348 208,545 27.8 11.4
15 牛・水牛・子牛の皮 23,507 36,007 65.3

(アルコール飲料の数量は 千リットル)