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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2001年2月号

有明ノリの不作、1300隻が海上デモ

諫早湾・潮受け堤防「水門を開けろ」

佐賀県東部地区漁協青年部 田村 和之会長


 有明海のノリがプランクトンの異常発生によって深刻な凶作になっている。諫早湾干拓の堤防閉め切りから四年近く。漁民は「生活できる海に戻せ」「水門を開けろ」と要求して、一月一日、十三日に続き二十八日にも千三百隻、六千人が海上デモを行った。佐賀県東部地区漁協青年部の田村和之会長に話を聞いた。文責編集部。

 全国の四割を占める有明海産のノリは、佐賀、福岡、熊本で年間約五百億円の規模です。生産量が多いだけでなく、有明ノリは品質がいい。有明海は内海で外洋水との入り替わりが少なく、筑後川など大きな川が流れ込むので塩分濃度が低い。ノリがやわらかくて、口に入れるととろりととける。
 ところが、今年のノリの色は黒ではなく黄色です。色落ちしています。ノリが成長して色をもつためにはリンや窒素が必要です。原因はプランクトンの異常発生です。
 毎年十月一日がノリ養殖の種付け解禁で、水温や海況を見ながら種付けをはじめます。五センチくらいに成長するのに約一カ月かかります。その時点で半分を陸揚げし、マイナス三十度で冷凍して、残った網を漁場に張ります。それが十一月の初旬です。一期目の収穫が十一月で終わり、十二月に入ったら冷凍保存していた網と張りかえます。
 ノリ養殖をやっている漁民はノリ専門の人が大部分です。収穫時期は十一月と十二月中旬から二月末までの二期作です。魚をとっている漁民は魚市場に出せば済みますが、ノリ業者は自分たちで加工する。縦二十一センチ、横十九センチのノリとして加工します。加工の設備、例えば乾燥機は二千万円もします。乾燥機だけでなく、それに類するいろいろな機械があり、設備に非常に金がかかる。それらの設備の支払いと一年間の生活費をノリで稼がなければならない。ノリ養殖というのは、海での仕事に二〜三人、加工にも人手が必要ですから家族総出の仕事です。忙しい時期には人を雇う。私のところも、十月から三月まで人を雇うんですが、こんな状態では給料も払えないので今期は断りました。
 昨日も入札があったんですが、例年の四割程度です。設備の支払いや今年の生活をどうするのか、みんな困っています。しかし、もっと私たちが心配しているのは、今後どうなるのかという問題です。
 平成九年(一九九七年)四月、諫早湾干拓事業で潮受け堤防が閉め切られました。私たちは諫早湾から離れているので、正直これほど影響が出るとは思っていませんでした。諫早湾は有明海の中でもっとも大事な部分なんです。一つは、魚や貝類や蟹などの産卵場です。また諫早湾の干潟には汚れた水の浄化作用があります。その干潟がなくなった。閉め切られた直後から有明海沿岸で満潮時の潮位が約五十センチ上がり、流れが変わり、流速が遅くなった。その後、毎年、魚介類の水揚げが減少。アサリに続き、タイラギ(二枚貝)もここ二年間収穫ゼロ。そしてノリの不作です。
 元旦の海上デモで、久しぶりに諫早湾に行きましたが、諫早湾のプランクトンの多さにびっくりしました。海の色が違う。約三メートルの海底まで魚群探知機が届かない。一目見て諫早湾は死んだと感じました。堤防の内側に生活排水などを貯める貯水池があります。潮水は一年おいても腐りませんが、真水はすぐ腐ります。リンや窒素が大量にある腐った水を一気に出すので、海水とぶつかってプランクトンが異常発生していると私たちは考えています。長崎大学の東幹夫教授は、閉め切りから二年で海底生物が六割も減ったという研究報告を出されています。しかし、諫早湾干拓事務所長は「水質に大きな変化はない」と発言しています。
 諫早湾の状況を見て、このままでは数年で有明海全体が死んでしまうと思いました。その根拠はプランクトンの異常発生、赤潮です。閉め切り後、発生回数が多くなり、範囲が広くなり、長期間続くようになりました。私は筑後川の河口に住んでいますが、最近では筑後川の川の中までプランクトンが発生しています。このままでは今年秋からの漁期には一枚もノリがとれないのではという危機感をもっています。
 一日も早く水門を開けなければ、今秋からの漁期に間に合わない。生活できる海に戻せ、という思いから元旦の海上デモに踏み切りました。十三日にも四県の漁民有志が漁船三百隻で海上デモをやりました。そして九州農政局にも堤防の水門を開けるよう要請しました。干拓事業は国の事業ですから、若者が行動するだけでなく、漁連全体を動かすことが必要だと考えました。
 そこで漁業組合の役員会や組合長会議にかけていただいて、有明海沿岸の四県全体がそろって動くような体制を要請しました。十三日のデモを境に、県議会や県知事も動き出した。また四県の漁連合同で、原因究明までの干拓工事停止と水門の全面開放を求めて、二十六日(天候不順で二十八日に変更)に大規模な海上抗議デモが決まりました。全体では千隻をこえると思います。
 原因究明の調査は干拓事業と関係のない第三者機関が調査をするべきだと思います。宝の海、生活できる海を取り戻すため、一日も早く水門を開いてほしい。