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高嶋伸欣・琉球大学教授
上杉聰・関西大学講師が公取委に申告

産経新聞、扶桑社、つくる会
3者は独禁法違反だ!


声明  及び 私的独占禁止法第45条第1項にもとづく申告書


声明

                                      2001.1.22

 産業経済新聞社と扶桑社、そして新しい歴史教科書をつくる会の三者が協同して推進してきた「教科書」(中学校「歴史」「公民」。以下「教科書」と略す)が、現在、文部省に検定申請されています。
 私たちはこの検定申請中の教科書見本(白表紙本)が、すでに各地に配布され、採択の勧誘が行われているなど、常軌を逸した「異常な教科書運動」が全国で進められていることに大きな危惧を抱いています。
 つまり、この「教科書」が戦前の皇国史観を復活させ、アジア侵略への無反省史、そして大国主義的利己主義と人権・平和感覚の欠如に彩られていることに、内外から批判が高まっています。私たちは、それに加えて、この「教科書」を検定通過−採択させようと全国に強大な組織が作られ、中央−地方の政治家や議会を動かし、また右「教科書」の発行元となっている産経新聞社自らがマスコミとして働き、世論を喚起し、ついに昨年末には自分たちの意に沿わない検定審議会委員の更迭までさせてきたことに、異常な政治運動の脅威を感じざるを得ないのです。
 これは教育に対する権力的な介入であり、本来、教育学や学術研究などによる高度で専門的な判断や、教育実践の積み重ねに基づいた保護者や子どもたちとの信頼関係などにより、自律的に発展させられるべき教育の営みが、政治運動によって強力にねじ曲げられる危険があるからです。
 ところで、こうした政治の介入はもとより、教科書会社の過当競争などによって教育が歪められることを、教育基本法や独占禁止法などは厳しく禁じています。とくに独占禁止法のもとで「教科書業における特定の不公正な取引方法」(公正取引委員会告示第五号)が指定され、教科書採択にいたる過程に厳格な規制が行われていることは、教育の公正・中立性と専門性を尊重する趣旨と評価されます。私たちは本日、この規定にもとづいて、右「教科書」の執筆・編集から出版・採択・販売までの事業を進めている三者に対して、公正取引委員会が厳格な措置を採るよう強く求める申告をいたしました。
 右の「公正取引委員会告示第五号」は、当然にも今回のような異常な政治運動への対処を十分に想定したものではなく、不十分な側面がありますが、教育基本法の趣旨などにさかのぼって、公正取引委員会が適切な運用をなされることを期待しています。
 私たちの動きを事前に察知してか、産経新聞社は「教科書」の発行担当から降りることを検討しているとのことです。問題の現場から立ち去ったとしても、かつて共同で行った行為が違法であるという私たちの疑念は、むしろ強まりこそすれ消えるものではありません。そして現実に違法であると判断されれば、その責任のみならず、共同して行った他の行為者の責任もまた消え去るものではないことを、ここに明言しておきます。
 とくに今回の問題については、日本の教育のあり方を通じて、世界とくにアジアの被害国からの信頼と期待を裏切ってはならないという大きな課題とも直結しています。幅広い良識の声が公正取引委員会に寄せられることを期待しています。

高嶋伸欣
上杉 聰

 

2001年1月22日 
公正取引員会御中
高嶋 伸欣    
上杉 聰     

私的独占禁止法第45条第1項にもとづく申告

T 違法行為者(被申告者)

1 名称 株式会社産業経済新聞社(以下被申告者甲という)
  所在地 東京都千代田区大手町1−7−2
  代表者 社長 清原武彦
  資本金額 31億5,005万円
  会社目的 日刊新聞の発行及び出版業

2 名称 株式会社扶桑社(以下被申告者乙という)
  所在地 東京都港区海岸1−15−1 スズエベイディアム
  代表者 社長 中村 守
  資本金額 4,000万円
  会社目的 月刊誌・週刊誌・文庫・書籍・ビデオの出版等

3 名称 新しい歴史教科書をつくる会(以下被申告者丙という)
  所在地 東京都文京区本郷2−36−9 西ビル1階
  代表者 会長 西尾幹二
  収入金額 4億1,532万円(1999年度決算)
  会の目的 「新しい歴史・公民教科書をつくり、児童・生徒の手に渡すこと」
        (会則第3条)


U 申告の趣旨

 被申告者甲、同乙、同丙は、競争者の顧客をして自らが発売・発行・編集・執筆などする(した)中学校「歴史」「公民」教科書に不正に誘引・取引するため、編著者を(と)して他社教科書の批判、中傷、ひぼう、比較対照などを執筆させ(し)、それを報道機関と(を)して報道し(させ)て公開・流布し、さらに買い入れ・頒布したもので、これら不正な手段をもって他社の発行する教科書の使用または選択を妨害したものである。
 これらが違反すると判断される法令は以下である。
    独禁法第2条第9項三「不当に競争者の顧客を自己と取引するように誘引し、又        は強制すること」、四「相手方の事業活動を不当に拘束する条件をもっ        て取引すること」、及び五「自己の取引上の地位を不当に利用して相手        方と取引すること」
    公正取引委員会告示第5号三「教科書の発行を業とする者が、直接であると間接        であるとを問わず、他の教科書の発行を業とする者またはその発行する        教科書を中傷し、ひぼうし、その他不正な手段をもって、他の者の発行        する教科書の使用または選択を妨害すること」
    教科書業の指定に関する運用基準で禁じられるもの「(イ)他社教科書との比較        対照の公布流布(ロ)中傷、ひぼう記事を買入れ頒布し報道すること
        (ニ)他社教科書の内容を批判または誤謬を報道すること(ヘ)編著者        をして他社又は他社教科書を中傷、ひぼうさせること」
 右の規定に違反したことにより、被申告者らに対し、すみやかに排除措置をとるよう求める。


V 違法行為の内容

 1 被申告人甲は、2002年度から使用される中学校「歴史」「公民」教科書の発行予定者であるとともに編集協力者であり、被申告者乙と同丙と1997年末から密接に協力する関係にある。
 被申告人乙は、2002年度から使用される中学校「歴史」「公民」教科書の申請者であるとともに編集・発売者であり、1997年末から被申告者甲と同丙と密接に協力する関係にある。
 被申告人丙は、2002年度から使用される予定の中学校「歴史」「公民」教科書の執筆者であるとともに、1997年末から被申告者甲と同乙と密接に協力する関係にある。

 以上の判断根拠は、被申告人丙の機関誌である『史』の1997年11月号と1998年1月号に紹介された三者の「覚書」、被申告人甲による『産経新聞』1998年1月9日付「社説」(「主張」)などによる。
 さらに被申告人乙(扶桑社)は、被申告人甲(産業経済新聞社)の出版部門であるサンケイ出版が、フジテレビの出版部門であった旧扶桑社と1987年に合併して作った出版会社で、同社は、フジサンケイ・コミュニケーション・グループ(FCG)の構成会社であるので、「同じグループの出版社として、産経新聞の動きをフォローしていくのが当然」とし「扶桑社としても『新しい歴史教科書をつくる会』のキャンペーンに産経新聞と共に同調している」と、同社取締役の石光章氏は語っている(『創』1998年6月)。
 同社の編集部は四部門に別れ、産経新聞社関連を取り扱う部門がこの「教科書」を担当し、担当する星野俊明編集長は、「今回の出版計画は、『新しい歴史教科書をつくる会』と産経新聞社、そして扶桑社が一体で進めているもので、私としては単なる本(の出版)ではなく、ひとつの運動として取り組んでいます」(同前)とも語っている。
 現に被申告人丙の編による『新しい歴史教科書を「つくる会」という運動がある』という書籍があって、これにより丙の会員は飛躍的に増えたと言われている。この本の発行は扶桑社発行であり、はがきが二葉挟み込まれていて、一枚には「つくる会」入会案内の送付希望を書き込む欄(宛先は扶桑社書籍編集部)があり、もう一枚は「つくる会」の本の購読者であることを表示した「産経新聞ご購読申し込みカード」で、宛先は産経新聞社企画開発室お客様係、料金受取人払いになっている。この本は、現在も店頭で売られており、被申告人丙が編集し被申告人乙が発行する本を通じて甲の購読者と丙の会員とを増やすという、三位一体の戦略がとられている。
 また被申告人丙の会長である西尾幹二氏は、右教科書のパイロット版である『国民の歴史』を執筆した苦労を述べた後、「なぜそうまでして『国民の歴史』を書かなければならなかったかといえば、出版社に資金を提供しなければ、肝心の中学校歴史および公民の教科書を出してもらえないからである…同書に対しすでに最も期待されてきたのは、もっぱらこの点である」とし、「教科書出版を引受けるのは各社とも並々ならぬ決意を要する…C社(発行・産経新聞社、発売・扶桑社)にしてもなかば気が重く、教科書以外の刊行物がとりわけ負担である。450ページくらいの、定価約1万円の教師用指導書を、歴史・公民それぞれに作らなくてはならない。自習ノートというのを作らなくてはならない。だから全国各地の採択にぜひ成功しなければならない。もし失敗し、教科書がほとんど採択されなかったら、こうした附属刊行物を含め、それに投入した取材費や人件費がことごとく欠損に終わるであろう。そこで採択がひじょうに重視される所以である」(『正論』1999年12月号)とし、被申告人丙(新しい歴史教科書をつくる会)の活動と同甲(産業経済新聞社)と同乙(扶桑社)の三者が、経済的にも深いつながりの上に活動していることを述べている。
 また、右以外の『史』によると、右「歴史」「公民」教科書の執筆者と執筆当時の被申告人丙における役職の関係は以下のようであり、執筆者がたんなる個人でなく、被申告人丙の組織の一員として行動していることを示している。
  「歴史」=西尾幹二[会長]・藤岡信勝[理事]・小林よしのり[理事待遇]・伊藤隆[理        事]・□坂本多加雄[理事]・□高森明勅[理事・事務局長]
          □は基礎原稿の執筆担当者 監修者に高橋史朗[副会長]他
  「公民」=□西部邁[理事]・佐伯啓恩・宮本光晴・佐藤光・杉村芳美・八木秀次         □は代表執筆者
 現実に被申告人丙の会則によると、その目的を「新しい歴史・公民教科書をつくり、児童・生徒の手に渡すこと」(会則第3条、『史』1999年9月)に置いているだけでなく、執筆のために組織的な作業が繰り返されてきたことを、同会の機関誌である『史』の事業経過報告(1997年11月、1999年3月、同7月、同9月、2000年3月、同7月)や総会資料、また同会が編集した単行本『新しい日本の歴史が始まる』(幻冬社)『新しい歴史教科書を「つくる会」という運動がある』(扶桑社)『新しい歴史教科書誕生!!』(PHP研究所)などが、詳しく述べている。

2 被申告人甲、同乙、同丙の三者は、自らが発売・発行・編集・執筆する中学校「歴史」「公民」教科書以外の他社教科書について、次のような書籍・記事・リーフレットを執筆させ(し)、それを公開・流布・頒布し(させ)、報道し(させ)て他の教科書を批判、中傷、ひぼうし(させ)たものである。
(1)被申告人甲・乙は、自らの歴史教科書の執筆者である藤岡信勝氏を中心にして、1999年6月26日から計七回にわたり、当時採択が検討されているさなかにあった小学校社会科教科書について、被申告人甲の『産経新聞』紙上において「小学校社会科教科書の通信簿」と題する特集をくませ、他社の教科書の記述を批判し、評価・順位を付けさせた。さらに同年9月には雑誌『諸君!』誌上にも、藤岡信勝氏を同じく中心にして、右を約二倍に加筆した文章を「小学校・歴史教科書を格付けする」と題して発表させた。
 その内容は、東京書籍、大阪書籍、教育出版、光村図書、日本文教出版の五社が発行する小学校六年生用の社会科教科書を、執筆者が理解する学習指導要領の内容にそっているかを、古代・中世、江戸時代、明治維新、日清・日露戦争、第二次世界大戦、国旗・国歌の各項目について、原文を不正確に引用しつつその記述を批判するとともに、一位から五位までランキングし、総合評価として「五種類の文部省検定済み教科書は、どれ一つとして十分満足のいくものではない」と全社の教科書をひぼうし、三社については「ワースト・スリー」と呼び、「ワースト三社が…九五%以上(のシェア)を占めている」と中傷したものである。
 藤岡氏は、当時は被申告人丙の副会長(現在は理事)でもあり、その執筆の意義を「本番の採択戦、つまり私たちのタマ(中学校の「新しい歴史教科書」)をもった戦いの前に…歴史教科書の採択について教育委員会(具体的には個々の教育委員)に問題提起できるチャンスがあるからです…今年と来年の採択では、私たちのつくる教科書は関係がありません。これは、私たちは直接の利害関係者ではないことを意味します。だから、その分、心おきなく活動できるのです」(『史』1999年7月)と説明している。
 これは、他の教科書の批判・ひぼう・中傷・比較対照などの公開流布・報道に該当する。そして、被申告人丙の団体は、右の「教科書の通信簿」をリーフレットにして大量に頒布したものである(『史』1999年9月)。
(2)さらに被申告人甲・乙は、1999年10月19日から計十二回にわたり、「直接の利害関係」にある中学校社会科教科書についても、被申告人甲が『産経新聞』紙上に「中学校社会科教科書の通信簿」と題して先行七社の教科書への批判記事を特集した。
 右の執筆は、被申告人三者による中学校「歴史」教科書の執筆者である藤岡信勝氏と監修者の高橋史朗氏が中心となったもので、両人は現在、被申告人丙の理事と副会長でもある。
 その内容は、帝国書院、清水書院、東京書籍、大阪書籍、教育出版、日本書籍、日本文教出版の七社が発行する中学校社会科教科書を、執筆者が理解する学習指導要領の内容にそっているかを、神話、古代、中世、近世、明治維新、帝国憲法、日清・日露戦争、南京事件・第二次世界大戦、終戦・占領・独立、戦後補償問題の計十一項目にわたって原文を不正確に引用しつつその記述を批判して、五段階評価付けしたものである。そして最後に総合評価として七社の教科書を合計得点によってランキングし、「総体として教科書の現状は由々しいものであることがはっきりした…5の評点は皆無である」「平均点3を一応の最低合格ラインと仮定すれば、七社の教科書のうち…合格ラインに達する教科書はただの一つもないというのが現状である」と全社の教科書をひぼうし、やはり三社については「ワースト・スリー」と呼び、そのシェアが「ちょうど五〇%となる」などとひぼう・中傷したものである。
 丙の会は、これら『産経新聞』の記事をリーフレットにして、さらに広範に直接頒布したのである(『史』1999年11月)。
 なお、他社の中学校歴史教科書への中傷とひぼうは、すでに1996年から西尾幹二・藤岡信勝氏の著書『国民の油断』(PHP研究所)から始まっている。同書には、明白に事実無根の記述があるのみか、さらに2000年5月15日には再編集の上、文庫本として改訂再発行され、現在も他社の教科書をひぼう・中傷しつづけている。西尾氏は、被申告人三者による教科書の執筆者であるとともに同丙の会長でもある。西尾・藤岡両氏は連署した文書を添え、あるいは同丙が会として組織的に、この本を各地の教育委員会に無償配布している。
(3)被申告人三者による中学校「歴史」教科書の執筆者であるとともに丙の理事待遇にある小林よしのり氏をして、他社の教科書への中傷とひぼうをマンガの「新ゴーマニズム宣言」第一〇四章(『SAPIO』)に描かせた。さらに丙の会はそれを大量にコピーして配布した(小林よしのり『新ゴーマニズム宣言』第8巻、174頁)ものである。

 なお付言するならば、被申告人丙である「新しい歴史教科書をつくる会」は、2000年3月末には会員が一〇〇〇〇人を突破、億単位の予算で活動し、全国すべての都道府県に支部をもつに至っている。これと連動して県市区町村の議会で彼らのために動くことのできる議員連盟は、北海道をはじめ千葉・山形・神奈川・石川・滋賀・和歌山・大分・宮崎などの県に結成されている。
 この政治運動の中心に、マスコミとして被申告人甲である株式会社産業経済新聞社が位置し、『産経新聞』と月刊誌『正論』は、この運動の政治的宣伝紙誌であるとともに、全体の指令塔の役割をも果たしている。被申告人丙である「新しい歴史教科書をつくる会」系の諸団体、あるいはそれと密接な議員や文化人の行動などは、同紙誌の記事によって大方を予想することさえできる。産業経済新聞社は、壮大な政治運動の先導役を果たしつつ、その影響力を教育の場に広げようと、「教科書」の発行を推進しつつある。

3 教科書をめぐるこうした政治運動は、本来排除されるべきものである。教育は、政治的中立を守るためにさまざまな法律によって規制されており、「教育基本法」は、教育の方法を「学問の自由を尊重」しつつ進めるとし(第二条)、「政治教育その他政治的活動をしてはなら」ず(第八条)、「不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負」う(第十条)ものと定めている。
 また教育に対し教科書が占める位置の大きさから、教科書の採択をめぐる競争についても、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」は、「不当に競争者の顧客を自己と取引するように誘引」(第二条)することを禁止し、公正取引委員会告示第五号で「他の教科書の発行を業とする者またはその発行する教科書を中傷し、ひぼうし、その他不正な手段をもって、他の者の発行する教科書の使用または選択を妨害すること」を禁じている。さらに公取委は、「他社教科書との比較対照の公開流布」や「中傷、ひぼう記事を買入れ頒布し報道すること」「他社教科書の内容を批判または誤謬を報道すること」「編著者をして他社又は他社教科書を中傷、ひぼうさせること」(「教科書業の指定に関する運用基準」)などを禁止してきた。
 あるいは、文部省や教科書の発行業者でつくる社団法人教科書協会も、右の方法を「順守」するよう指導し、または申し合わせを行ってきた。さらに文部省は、きびしく、「内容解説等の宣伝用パンフレットについても、体裁、分量、数量を極力自粛するよう指導」しているし、教科書協会も「教育用機関誌等には、新版の小・中学校用教科書に係る採択勧誘のための宣伝記事をすべて禁止する」ことまで合意している(文部省「公正確保に関する規制一覧」)。
 ただ、先の公取委による「教科書業の指定に関する運用基準」は、「教科書の発行を業とするもの」を定義して、「教科書を発行し、または発行しようとする事業者をいう」とし、「文部省に検定出願したときから発行しようとするものとみなす」としている。一見すると本件における被申告人等の行為は、彼らが検定出願した2000年4月以前の行為を含まないかのような印象を受ける。
 だが、右の定義は、新規の教科書業者が検定出願する前から、三者一体となって「採択戦」に向け活動を活発に行ってきた今回のような異常な事態を想定していないことによる不備にすぎない。現に上記の定義においても、検定出願中で、いまだ検定を通過した教科書を持たない事業者でも制限されることを規定しており、これをみるに、たんに検定通過後から採択までの事業者の活動を拘束する意味ではないことが明らかである。
 また、教科書を以前に発行した事業者は、次の時期に採用される目的で検定申請する以前から拘束されることを考えれば、かつて教科書を発行したことのない事業者のみ検定申請まで何ら拘束を受けないという不平等が生じることになる。したがって「文部省に検定出願したときから発行しようとするものとみなす」という条項は、「発行しようとするもの」の定義を、「(すくなくとも)文部省に検定出願し(ようとし)たときから」と、括弧内の文字を加えて理解すべきであることが明らかである。本件のように、教科書を作成することを目的とした団体である被申告人丙が、他の発行・発売を引き受ける事業者と出版について合意した段階で、三者はすでに「発行しようとするもの」であるとみなすべきなのである。
 冒頭に書いたように、被申告人甲・乙・丙は、遅くとも1997年末には「教科書」の発行などについて互いに「覚書」を交わしている。したがって、それ以降は、上記の規制の対象となる関係にあり、いずれも取り締まりを受ける対象者である。にもかかわらず、以上述べてきたように、被申告人三者は、『産経新聞』などの報道機関を通じて他の教科書を批判、中傷、ひぼうしてきたのみならず、被申告人三者が共同して出版する「教科書」執筆者を先頭に立てて、膨大な出版物を流布・頒布し、さらに組織的な政治活動により、過当な宣伝戦と他社への批判を繰り広げてきたのである。
 もし、教育現場をめぐってこのようなことが行われることを許せば、教育は政治や組織・団体による活動の場となり、教育活動そのものが破壊されることは言うまでもない。これは、教育への不当な政治介入以外の何物でもなく、違法な事態である。
 よって、被申告人による申請教科書は、本年2月末には検定を終了する見込みであるので、その前にすみやかに排除措置を求めるものである。

                                以上