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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2000年7月号
 

分断から自主的統一へ歴史的な一歩
日本は日朝国交正常化交渉を

東京大学教授  姜尚中


 
歴史的な南北首脳会談

 朝鮮半島の分断から五十五年、歴史的な朝鮮の南北首脳会談が開かれました。金正日・金大中両首脳による首脳会談が六月十三日から平壌で開かれ、共同宣言が発表されました。共同宣言では、統一問題を自主的に解決する、離散家族訪問、経済協力などを確認しました。
 日本に住む私たち在日にも大きな影響を与えました。自分たちの日本での分断状態は差別と密接にかかわっていました。在日という差別・被差別的な状況の中にありながら対立を繰り返していた。しかし、南北の和解という歴史的な事件を目撃し、自分たちの差別的状況の大きな原因が除去された。これは二重、三重の喜びです。二番目は、自分たちの対内的な分裂・分断が引き裂いていた家族や地域社会の生活レベルの問題でも光がさしてきた。三番目は、棄民的な方向からもう一度、隣にいる自分たちの民族との関係をもとう、たとえ自分たちが日本に同化しても隣国が平和でなければ、平和な生活ができないということを改めて感じさせられたと思います。
 二十世紀最後の今年、朝鮮戦争から五十年の六月二十二日を控えて、負の遺産を清算する大きな第一歩をつくりだした。私個人は、長い目で見ると歴史は裏切らないんだと癒される思いを感じています。多くの人はそうではないか、とくに在日一世、二世の人たちはそうだと思います。各地で在日の方々がテレビの前に集まって、握手したり感激の涙を流すという状況がありました。
 二十世紀の朝鮮半島は、日本による植民地支配、冷戦、内戦・分断が続いています。こうした百年の歴史にピリオドが打たれ、そこから少しずつ脱却できる。二十世紀の最後の年に、自分たちを代表している人が自分たちの手で、自主的に幕を引いた。これは非常に大きかった。

米日の思惑をこえた首脳会談

 一九九四年に金日成主席が亡くなって以降、日本では第二の朝鮮戦争の勃発か、ということがまことしやかに言われ、日米安保再定義、ガイドラインによる後方支援体制などが進められてきました。
 ところが、今度の南北首脳会談で、第二の朝鮮戦争という状況ではなくて、まったく逆の状況に進んだ。今回の首脳会談に日本側がとまどい、アメリカ側が苦々しく思った。その一つのあらわれが、首脳会談直後のアメリカのオルブライト国務長官の急きょの韓国訪問だと思います。金大中大統領の特使もニューヨークに飛んでクリントン大統領に報告している。これらはアメリカ側の意図や思惑をこえたシナリオが南北首脳会談でできつつあるのではないか。朝鮮半島や東アジアだけにとどまらず、アメリカのグローバルな軍事的なヘゲモニーを占う上で試金石であった。今回の首脳会談は、そういう意味でも、与えた波紋が大きかった。
 なぜそういうことになったのか。九四年に金日成主席が亡くなる直前に、カーター元大統領を特使として受け入れて、南北首脳会談をやろうとした。この時はアメリカ主導で、南北朝鮮の関係が作られようとしました。北朝鮮は一貫して米朝関係を主軸に置いていました。それが逆転して、南側をパートナーシップに選んだ。この結果、朝鮮半島の問題を両当事者が自分たちの主導権で解決する方向に進んだ。そのためアメリカの影響力が相対的にそがれる。南北共同声明の第一項目に「自主的」という言葉が入っています。将来的に、在韓米軍が縮小もしくは撤退の可能性が出てきた。そのため韓国とアメリカの関係がぎくしゃくして、韓国側も修復するため働きかけをした。地域紛争において、紛争の両当事者がアメリカの軍事的な戦略やその配置、規模、兵力などについて、直接アメリカを介さずに議論をするということは過去にはなかった。アメリカにとって、これを放置しておけば、在韓米軍さらに在日米軍をはじめ世界中の米軍兵力にまで波及しかねない。それほど今回の南北首脳会談はグローバルな意味で大きな影響を与えている。
 もう一つは、アメリカの本土ミサイル防衛(NMD)構想をめぐる問題があります。NMD構想にはロシアや中国は反対し、NATOの中でもドイツは否定的です。そういう中で首脳会談があった。しかもロシアのプーチン大統領が沖縄サミット直前に北朝鮮を訪問する。旧ソ連時代にもなかったこと。南北両朝鮮問題が、冷戦崩壊後のグローバルな軍事的均衡や安全保障にとって台風の目になっている。また金正日氏が南北会談直前に北京を訪問。おそらく中国も対米けん制、とりわけNMDに対するけん制だと思います。
 こういう中で、北朝鮮に対する米日韓の関係が、かつてのような関係を持ちえなくなった。お互いの思惑の違いがはっきり出てきた。ただし金大中政権としては、すぐにはアメリカとクールな関係は作れない。したがって微妙な外交バランスを取りながら事態は進んでいく。
 具体的にいうと、金大中氏と金正日氏の二人だけのときに、どんな話をしたのか。想像ですが、二十年くらいで朝鮮半島からすべての駐留軍隊を撤去するという話をしたのではないかと思います。それにはプロセスを踏まなければならない。現段階においては、在韓米軍の駐留は認める。ただし、アメリカとの休戦協定を平和協定にかえた時点で、アメリカがすべての経済制裁を解除する。IMFをはじめとするいくつかの国際機関に加盟する。これは、いまのグローバル資本主義に北朝鮮を包摂していくことになります。しかし、それはアメリカ主導ではなく、韓国の独自な動きを通じて、相対的に朝鮮半島の自立性を獲得した中で事態は進んでいくだろうと思います。
 いずれにしても在韓米軍の目的、戦略、その正当性をアメリカがどう説明するのか問われてくる。北朝鮮が脅威でないとしたら、どこが脅威なのか。アメリカの本音は中国ですが、中国が脅威だとは言えない。ましてや中近東を含めたアメリカのグローバルな展開ということでは納得できない。そうすると在日米軍、沖縄の米軍基地、日米安保再定義、日米ガイドラインと後方支援、そして有事法制などに差し迫った緊急性がなくなった。しかし、アメリカも日本も、そういう転換を渋ろうとしている。極東アジアの米軍十万人体制を正当化しようとする。
 しかし、それは国民の目から見て、実際と違うのではないかという意識が高まる。韓国では、米軍事故もあり、在韓米軍撤退の運動が激しくなっています。ドイツ、日本、韓国という順で地位地位が劣悪になっています。だから地位協定を日本並みにということで事態を収拾させるという動きがあるでしょうが収まるかどうか。
 率直にいってアメリカは金大中政権を過小評価していたと思います。つまりアメリカの思惑以上に事態が進行してしまった。よほどの危機的な状況をつくらない限り、共同宣言の内容も含めて後戻りさせるのは難しい。しかも世界的に見ても北朝鮮との多極的な外交関係がつくられつつある。アメリカだけ突出して、制裁を続けることはできない。アメリカの大統領選の結果でどういう展開になるか。アメリカとしては北朝鮮が南に脅威にならない、しかも在韓米軍の存在を認めるということが確認でき、最終的には核とミサイル開発問題で取り引きできれば、米朝関係は過渡的にはうまくいくのではないか。
 今後は金正日が韓国を訪問すればさらに明るい方向に向かう。これが大きな試金石だと思います。早ければ今年中、来年かもしれませんが、私は金正日は韓国訪問をすると思います。そうすれば真の意味で、ポスト冷戦に向かっていく。

日本は日朝正常化交渉を

 残念ながら日本は、どう対応すべきか戸惑っているというのが実際だと思います。このままでは日本はアメリカにも遅れて、米中交渉の時と同じような状況になりかねない。日本はすみやかに日朝交渉を再開すべきだと思います。「拉致疑惑」は日朝交渉再開の条件にすべきでなく、正常化交渉とは切り離して別途話し合うべきだと思います。そうすることで、逆に経済的な賠償などで朝鮮半島に積極的にコミットできる可能性が開かれると思います。
 朝鮮半島情勢が激変したのに、総選挙では争点にならなかった。自民党の側は争点にしたくなかったんだろうと思いますが、野党の側も何一つ言わなかった。景気、年金、介護など内向きな課題に終始した。日本の政治は、あるいは国民の関心は生活防衛だと思います。したがって朝鮮半島の平和の問題は票にならないと各政党も判断している。それが有権者の関心として成り立たないところに日本の政治の問題点があると思います。朝鮮戦争以来の変化に果敢に対応できる感性、政治的な力量が見られない。
 ただ沖縄にとっては非常に大きな波紋を投げかけた。今後、在韓米軍が縮小に向かった場合、沖縄の負担がより大きくなるのか、それとも在日米軍自体もリンクして縮小の方向に向かうのか。東アジアの米軍十万人体制も含めて、海をこえて市民レベルの動きがより強まってくると思います。「脅威」と言われた状況が変化することによって、日米安保や在日米軍の正当性を問い直す声、運動が高まってくると思います。そういう運動は必ずアメリカの市民運動、世論を動かすことになると思います。どんなに強弁しても、脅威のないところに在韓米軍や在日米軍を置こうとしても成り立たない。そういう意味では大きな歯車が動いたと思います。
 南北統一の始まりの始まりですが決定的な第一歩です。私は南北統一まで二十年くらいかかると思っています。第二の朝鮮戦争の危機から脱出して、共存の時代になる。共存の中で、軍縮、軍備管理、非核などが現実問題となってくると思います。
 東アジアの中で非核、やがて多極的な安全保障体制、あるいは集団的な安全保障体制が進んでいく。今度のASEANフォーラムに北朝鮮が参加します。北東アジアから東南アジアという東アジア全体に多極的な安全保障体制に進む可能性がある。その場合、日本がもっとも反動的な力、あるいは現状維持的な力として対応しかねない。その姿勢を変えなければ東アジアの中で孤立するのではないか。中国やロシアはそれぞれ思惑があるにしろ、きちんとアプローチしています。周辺国では日本だけが蚊帳の外という状況です。
 歴史認識問題、賠償問題をきちんとして、正常化のための日朝交渉を再開することが重要です。南北朝鮮が統一に向かうことは日本にとってもプラスになる、日本の国益につながるということを認識することが大事だと思います。隣国の朝鮮半島が平和になるというだけでなく、これまでのいびつな対米従属関係から離脱して、アジアの中で平和的な多極間関係をつくっていける。そうすることで日本が選択肢を広げていくことができ、真の意味で日米関係が対等に言い合う関係になると思う。
 アジアの中で日本が信頼されるかどうか、日朝交渉はリトマス試験紙です。日本が過去を謝罪し賠償も含めて実行し日朝国交正常化が実現すれば、東アジアの中で日本に対する警戒心は弱くなると思います。日本が平和を愛し、日本国憲法の理想状態でないにしても最低限、ドイツ並みの国として振る舞うということがわかれば、アジア諸国の中で日本は信頼をえることが可能です。
 しかし、北朝鮮脅威論をあおり、右バネが強まっている現在の日本の政治状況では、日本には米軍がいた方がいいという「瓶の蓋」論がアジアの中で一定の説得力をもつと思います。「神の国発言」などを契機に『ワシントン・ポスト』でもそういう指摘があります。憲法改正までいけば、そういう議論はさらに強まると思います。
 日朝の国交正常化を通じて、朝鮮南北統一に協力することできるかどうか、日本の進路にとって問われている課題だと思います。
        (文責編集部)