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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2000年11月号
 

米専門家グループ
対日安保政策の見直しを提言


広範な国民連合事務局長 加藤 毅


 南北首脳会談の歴史的な成功によって、朝鮮半島の情勢は民族和解・自主的統一へと大きく動いている。それとともに、韓国では民族和解・自主的統一とあいいれない在韓米軍への反発、米軍基地撤去の運動も強まっている。沖縄では、サミット開催によって世界のマスコミ関係者が沖縄に集まっているその時に、二万七千人の人々が米軍嘉手納基地を人間の鎖で包囲した。米軍基地の重圧に対する沖縄の怒りが、たちまち世界に伝わった。
 朝鮮半島情勢の変化によって、日本でも韓国でも米軍の駐留を正当化する理由は見あたらなくなった。在日米軍基地も在韓米軍基地も、いつ噴出するかわからぬマグマの上にある。そのことを最もよく知っているのは他ならぬ米軍である。
 米国は危機感を強め、アジアにおける米国の覇権を維持し、それを保障する米軍の駐留を持続可能で信頼のおけるものとするために、対日安保政策の見直しを迫られている。
 日本は朝鮮半島情勢に応え、すでに存在理由を失った日米安保を破棄し、沖縄を含む全土から米軍基地を撤去し、自主・平和外交でアジアの平和と安定に貢献することが求められている。

 米国家情報会議の危機感

 十月三日の共同通信は、米国の国家情報会議が「東アジアと米国−現状と今後五年の展望」と題する報告書をまとめ、米政府関係者に配布していることを明らかにした。国家情報会議は、中央情報局、国防情報局、国家安全保障局等の情報機関をたばねて情勢分析を行う組織である。
 その報告書は、人権、民主化などを重んじ各国の主権を犠牲にする米国の一方的な介入への抵抗が強まること、米国の貿易政策に対する反発や、日本が米国を排除してアジア経済機構構築に動く懸念などに言及して、「米国と東アジア主要国の間の相違は広がり、米国の政策遂行は困難になる」と危機感を表している。
 そして、米国が在日米軍や在韓米軍を現状維持する姿勢を続ければ、日本や韓国で民族主義的な反発を呼び、米国と両国との関係は悪化すると警告している。

 専門家グループの提言

 十月十一日、アーミテージ元国防次官補、ナイ前国防次官補、キャンベル前国防副次官補など、米国の対日安保政策を構築してきた専門家グループが、対日政策に関する新たな提言をまとめた。
 提言は第一に、アジアには朝鮮半島や台湾情勢など米国が大規模な紛争に巻き込まれる可能性があり、日米同盟は米国の世界安保戦略の中心だ、としている。
 第二に、日本が集団的自衛権を行使できないとする原則を撤廃すれば、日米の安保協力はより密接で効率のよいものとなるとして、日本がより大きな貢献をすること、より平等な同盟国になることを求めている。
 第三に、米英の特別な関係を日米関係のモデルとすべきだとしている。そのための要件として、@日本が日米防衛協力のための新指針(新ガイドライン)を履行すること、A日本が国連平和維持軍(PKF)への参加凍結を解除すること、B日米が協議して、地域の安保環境に基づき、米軍の駐留を見直すこと、C米軍の任務遂行能力を維持したままで、在日平軍基地がもたらす日本の負担を減らすこと、D日米が軍事技術やミサイル防衛で協力すること、をあげている。
 第四に、沖縄への米軍の過度な集中によって、海兵隊も訓練で制約を受けているとして、米軍の駐留を持続可能で信頼のおけるものとするため、海兵隊の展開、訓練をもっと地域に拡散すべきだ、と主張している。
 第五に、米国は日本が偵察衛星を保有するのを支持し、国家安全保障問題担当大統領補佐官や中央情報局(CIA)長官は情報分野で日本との協力を進めるべきだ、としている。
 この提言の特徴は、@日米安保を米国の世界戦略の中心にすえ、A集団的自衛権を行使を可能にする改憲、新ガイドラインの履行、PKFへの参加、軍事技術やミサイル防衛での協力、偵察衛星の保有や米情報機関との協力など日本の軍事的役割の拡大を迫り、B沖縄の不満を和らげる、つまり米軍の駐留を持続可能で信頼のおけるものとするために、海兵隊の展開、訓練をアジア・太平洋地域に分散する、ということである。

 米新政権の対日政策への影響

 この専門家グループを組織したのは、共和党のレーガン政権で国防次官補代理、国防次官補、ブッシュ政権で旧ソ連緊急支援の大統領特使を務めたアーミテージである。他方で、メンバーのナイは、民主党のカーター政権で国務次官代理、クリントン政権で国家情報会議議長、国防次官補を務め、「東アジア戦略」をまとめた人物である。キャンベルは今年四月までクリントン政権で国防副次官補を務め、日米特別行動委員会(SACO)のとりまとめや新ガイドライン作成にあたった米側の責任者である。
 したがって、この提言は民主、共和の両党にまたがる超党派の専門家グループによるもので、ゴア、ブッシュのどちらが政権についても、新政権の対日安保政策に影響を与えると思われる。特に、ブッシュ新政権が誕生した場合は、アーミテージがブッシュ大統領候補の外交顧問を務めていることから、この提言が対日安保政策の青写真になる可能性が非常に強い。
 提言の第一にある「日米同盟は米国の世界安保戦略の中心」は、共和党が八月の党大会で打ち出した方向と一致している。共和党はアジア政策について「中国を米国の対アジア政策の中心には置かない」「台湾を強く支援する」として、中国を「戦略的パートナー」と位置づけたクリントン政権との違いを強調し、同盟国との関係維持を重視する姿勢を打ち出した。
 アーミテージは「日本は米国の戦略的パートナー。在日米軍基地なしに米国はアジアで必要な行動をとれない」と、アジアにおける日本重視を強調してきた。さらに「アジア・太平洋での十万人態勢の数字にこだわるべきでない。米国の安全保障上のコミットメントを果たせれば、兵力数は多くても少なくても構わない」と主張し、「ブッシュ政権下で見直す可能性がある」と述べている。
 キャンベルも提言に先だち、九月一日に発表した「日米防衛協力への活力化」と題する論文で、二十一世紀にも日米同盟を維持、強化するため、日韓両国に集中する現在の米軍アジア駐留態勢や日本国内での軍事訓練を見直すべきだと主張している。具体的に、フィリピン、グアム、オーストラリアなどに米軍基地や軍事訓練の一部を分散するべきだと述べている。
 米海兵隊のジョーンズ総司令官も、八月三十一日付の「星条旗」(米太平洋軍準機関紙)で、グアムやオーストラリアで海兵隊の訓練をもっと行うべきだと述べている。
 この提言が新政権の対日安保政策に影響を与えるのは確実なようだ。

 安保はいらないの世論を

 今や米国も日本政府も、なぜ日米安保を存続させる必要があるのか、国民に説得力をもって語れなくなった。米国による対日安保政策の見直しは、日本の側からすれば、日米安保破棄、在日米軍基地撤去に向けて、日米安保を見直す好機でもある。
 民主党の鳩山代表は十月十五日、アーミテージらの提言に呼応するかのように、集団的自衛権の行使を認めるべきだ、憲法にもしっかりうたうべきだと発言した。時代錯誤もはなはだしい。
 今こそ、安保はいらない、米軍基地はいらない、日本は自主外交を、との声をあげ、国民世論を盛り上げるときではなかろうか。