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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2000年11月号
 

朝鮮半島和平と日本

元防衛庁官房長  竹岡 勝美


(一)昨年前半、米国の要請に基づき、北朝鮮を仮想敵国と見立て、日本の基地から北朝鮮に猛攻を浴びせる米国に、国をあげての後方支援を日本に義務づける「周辺事態法案」が国会で集中審議された。
 その間、元防衛庁に在勤した立場にありながら黙視でき得ず、多くの国会議員への数度の私信や朝日・毎日両紙のインタビューで私の疑念を訴えた。
 その第一は、かつて朝鮮民族を隷属の民と化し、無謀な戦争に敗北して半世紀に及ぶ南北朝鮮分断の悲劇をもたらした元凶ともいうべき日本こそが、率先して朝鮮半島和平に献身すべき道義的責務があるにもかかわらず、むしろ逆に朝鮮人民が再び骨肉あい殺し合う第二の朝鮮戦争を想定し、米国への忠誠心を示すがごとき周辺事態法作りにウツツを抜かすという民族的背理。その第二は、手の届かぬ日本からの米軍の猛攻にせめて一矢を報いようと臥薪嘗胆(がしんしょうたん)、やっと日本に届く弾道ミサイル・ノドン(射程千三百キロ)を開発し、一九九三年五月の試射に成功し、今や百基も配備している北朝鮮と米軍の戦争に日本が巻き込まれる時の戦禍の重大さを憂慮するためであった。


(二)しかし、政府は「周辺事態とは北朝鮮や中国など特定の国や地域を対象とするものではない」との虚偽の遁辞(とんじ)を弄し、私の疑念は完全に無視されて昨年五月に立法された。
 ところが、立法後まだ日の浅い昨年七月、自民党の研修会で、当時の野呂田防衛庁長官は、「一基で十二万人が殺される炭疸(たんそ)菌など生物兵器を搭載したノドンが首都圏に撃ち込まれれば核爆弾よりも悲惨なことになる」と今になって無責任にも暴露し、その対応は自衛隊のみで責任が負えないと吐露した。
 次いで、本年二月には、北朝鮮の南侵を周辺事態と見なす日米合同の軍事演習が公然と展開され、北朝鮮のテロ部隊の侵入、ノドンの撃ち込みなども想定されたらしく、四月に防衛庁に「生物兵器対処懇談会」が設置された。


(三)このように、寸前まで北朝鮮敵視に固執していたわが国の外交、防衛当局にとっては思いもよらぬ六月の南北朝鮮首脳会談はまさに「寝耳に水」の驚きであったろう。その悔しさのためか、この会談も日米韓三国の軍事力を背景としたアメとムチによるものとの的外れの強弁でつくろった。


(四)しかし、韓国の軍事政権に拉致され、死刑まで宣告されながらも屈せず、民族和平一筋に北の同胞を信頼しての「太陽政策」を推進してきた金大中韓国大統領の志操と民族愛が、さしもの頑な金正日政権の胸襟を開かせ、同一民族の血の団結を蘇らせた成果であったはずである。共同宣言の「南北朝鮮人民の自主的解決」との文言にその思いが込められている。
 やはり、人類の進歩とは、ゴルバチョフ、カーター、金大中など相手方の人間性を信じ、不信から信頼、対決から対話と人類共通の安全保障で国民を誘導するヒューマンな政治家によってこそ動かされる。


(五)本年八月に日本が主宰して沖縄で開かれたG8も「われわれは温かくこの会談を歓迎し、…この対話がさらに進展するように奨励し…韓国と北朝鮮による朝鮮半島の永続的な平和の確立のためのすべての努力を強く支持する」との異例の声明を発表した。
 文句なく金大中氏にはゴルバチョフに次ぐノーベル平和賞が贈られた。
 次いで十月にソウルで開かれ森首相も出席したアジア・欧州首脳会議(ASEM)も「歴史的な一歩を踏み出した金大中大統領と金正日国防委員長の勇気とビジョンを讃える」との「ソウル宣言」が発表され、席上、英独両首相も北朝鮮との国交樹立を約束した。


(六)このような世界あげてのこの南北首脳会談の歓迎と支持、両首脳への讃辞の中で、本来、民族の襟度からも率先歓迎すべき日本の国内でのマスコミや言論人たちの冷視、誹謗、中傷の甚だしさは目に余るものがあり、いたずらに日本の品性を貶(おとし)め、国望を失わしめている。
 曰く「手放しで評価できるか」「いたずらに日朝関係改善を急ぐべきではない」「傍若無人、不遜な金正日」(サンケイ)、「横田めぐみさん両親が呆れる金正日、金大中おべんちゃら報道」(週刊文春)等々。その後も「正論」や「SAPIO」には罵詈雑言(ばりぞうごん)が相次ぎ、コリアン・レポートの辺眞一氏までTVに登場した。NHKが招いている伊豆見元氏も、私の知るかぎり反北朝鮮論者であったはずである。
 果たして、これらの反対論者は、日本の首相として、国連総会やG8、ASEMという国際場裡で、この誹謗、中傷を公言できる自信があるのか。おそらく世界の世論に袋叩きにあうだろう。
 彼らの反対論の中核に拉致問題がある。私もあるいは実在したかと疑っているものの、「拉致問題は日本の主権を侵している」との反対論は、日本こそが戦後一貫して北朝鮮を独立国としてその主権を認めてこなかったことを知らねばなるまい。主権を認めない国に主権が侵されると非難するのは筋違いである。まずは相互に主権を認めあうスタートを切ってからの話ではないか。


(七)昨年開かれた「北朝鮮とペリー報告」とのシンポ(読売)で、反対論者でありながら司会役をつとめる外交評論家の岡崎久彦氏が、自ら訪朝してベルリン米朝協議をまとめてきた元国防長官ペリー氏に「もし米国の子女が拉致されても、アメリカは食糧援助するのか」と質したのに、ペリー氏は立腹し「朝鮮半島では五万人以上の米国人が殺されている。しかし、そのような歴史的感情で、朝鮮半島の冷戦終結という平和創立の大義を妨げてはいけない」と一蹴し、同席した駐日ロシア大使パノフ氏も「最初に拉致など持ち出せば何もできない。最初に関係を改善すれば、その改善過程で拉致問題も解決できる」とゴルバチョフ外交を引用してペリー氏に同調している。思えば韓国にも多くの漁民が拉致され、ラングーン爆破事件、大韓航空機事件など多くの犠牲者を出している。それでも会談に踏み切ったからこそ金大中氏に讃辞が集まるのである。当然に植民地化した補償も覚悟しての日朝国交正常化により交流が始まれば拉致問題も氷解しよう。


(八)反対論者の中には米国の北朝鮮敵視策に追随した者もあろうが、その肝心の米国がついに、十月九日招待した北朝鮮の趙明禄国防委員会第一副委員長にクリントン大統領やオルブライト国務長官が会見するなど異例の好遇で迎え、「ともに他方に対して敵対的意思を持たないと宣言し、今後、過去の敵対感情から脱した新たな関係を樹立するためあらゆる努力を尽くすとの公約を確認する」との「米朝共同コミュニケ」を発表し、「米国大統領の訪問を準備するため」との約束通り、十月二十二日初めて訪朝したオルブライト国務長官と、彼女を温かく迎えた金正日氏との二日間六時間の会談が成功した。会談後、オルブライト氏は「北朝鮮側の歓待に感謝し、平壌の美しさと子供たちの愛らしさに胸を打たれた」とプレス声明で述べ「金正日総書記はきわめて現実的で断固たる態度の聞き手であり、対話の相手だ」と評している。すでに十一月のクリントン大統領の訪朝も噂されている。
 米国から要請され、北朝鮮を敵と憎む周辺事態法の立法、米軍との共同演習とは一体何であったのか。その日本を見捨てるように米国は北朝鮮と頭越しに手を握ろうとしている。
 もとより、日本、朝鮮半島、東アジアの平和のため歓迎すべき一大慶事であるが、先の対中、対ソ連と日本は勝手に米国に先を越された苦い経験があった。やはり日本には外圧が必要なのか。


(九)今後、米朝国交が進むならば、日本も半世紀の国恥であった四万七千人の在日米軍の縮小を求めても米国から文句を言われる筋がない。すでに在韓米軍の縮小も噂されている。まずは今後五十年も使用させ、建設経費一兆円という普天間基地の名護への移設計画を見送り、ハワイなどへの移駐を要求すべきではないか。国際自然保護連合の名護市沖のジュゴン保護の決議も出ていることである。