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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2000年9月号
 

政府税調「中期答申」を批判する

消費税中心の大衆増税に反対する世論を


不公平税制をただす会代表、税制経営研究所所長  谷山治雄


 七月十四日に出された政府税制調査会(政府税調)の「中期答申」を批判的に検討したいと思います。

中期答申は増税白書

 政府税調の委員の任期は今年三月までですから本来はそれまでに中期答申が出されるはずでした。ところが六月に総選挙があったので、七月に延期しました。国民が反発する内容の中期答申が総選挙前に発表されることは政府与党にとっては都合が悪いからです。事実、七月に出された中期答申は増税白書です。しかし、増税の必要性と方向は書いてありますが、具体的な目標や内容、提言については一切数字がありません。
 例えば、消費税は基幹的な税金だから増税の柱だとはっきり言ってるが、いつから何%にするか一言も書いてありません。同様に所得税の課税最低限の引き下げが必要と指摘してあるが、どういう控除をいくら引き下げるか一言もありません。
 なぜそうなったのか。政府税調とすれば、せっかく総選挙後に延ばしたのに、与党三党が大敗し、このままでは来年の参院選挙で与党の過半数割れも予想される状況になった。増税したいけれども国民の反発を恐れて、増税の方向だけ示すだけで具体的な数字は一切示さないようにしたのではないか。そういう意識が働いたように感じます。
 中期答申には、「参加」「選択」という言葉が何度も登場します。参加とは、日本は代議制の国だから議会の選挙を通じて参加すること。結局、税調の言うことに納得して、それに賛成する政党に投票しなさいと言いたいわけです。選択についても、明確に方向が示されています。消費税増税、課税最低限の引き下げ、外形標準課税の導入が必要だ、増税がいやなら、社会保障費は削減するしかない。消費税を中心にした増税か、社会保障の削減あるいは社会保険料の引き上げかという選択を迫っています。われわれが主張する「消費税廃止」や「金持ち増税」という選択肢は政府税調にはないんです。これは国民への責任転嫁であり、脅しです。参加と選択は、政府税調とその背後にある政府与党の態度を示す一つの重要なキーワードです。

増税の論理

 政府税調はどういう増税の論理を展開しているのか。
 一つは「公的サービス(財政支出)と税負担(税収)のギャップ」があり、財政赤字が大変だと言っています。国と地方合わせて六百四十五兆円の借金があり、このままでは大変なことになる。社会保障などやっていけなくなる、だから増税だと言っています。しかし、ちょっと待てと言いたい。六百四十五兆円の借金は誰のために使ったのかと。例えば小渕首相は短期間に景気対策と称して公共工事などで百兆円も借金を増やした。ゼネコン中心の公共工事や銀行救済で借金が増えました。一方、大企業の法人税の減税、累進課税をゆるめて金持ち減税を繰り返したため、十一兆円も税収が落ち込みました。政府税調は、借金の原因や責任を明らかにすべきです。
 次に、「経済成長に伴う税収増は期待薄」だと述べています。景気回復しても経済成長率は二%程度しかならない。税収増は、せいぜい三〜五兆円程度で、経済成長による税収増は期待薄だと述べています。この論理は、不況を長引かせた政府の経済政策の責任については一切触れていません。
 財政赤字が大きく、経済成長でも赤字が解消できないので、「公的サービス(社会保障)の削減か、増税かの選択」を迫っています。国民への脅しです。日本は少子高齢化社会に向かっており、結局は増税を選択しなさいと言っているわけです。
 さらに、「増税は十分に可能だ」と述べています。その根拠の一つが、国民負担率の国際比較です。政府税調は、日本の国民負担率(国民所得に占める税金と社会保険料の比率)が低いから増税が可能だといっています。しかし、この数字はあまり根拠がありません。一つは日本はバブルの崩壊による長期不況で税収が低下しました。また、所得税、法人税を中心に金持ち減税をやり税収が減少しました。さらに、日本の場合は中小企業は法人となっていますが、欧米では中小企業は個人扱いです。負担率の数字は事実なんですが、経過や中身が問題なんです。また国によって事情が違うのに、単純に数字だけ比較するのは問題です。
 政府税調は、増税が必要だと言いながら「過度の負担はよくない」と述べています。どういうことかというと、大企業や金持ちに対して重い税金をかけると、勤労意欲、事業意欲、投資意欲を阻害するからだめだと言っています。大企業に増税すると、大企業が日本から逃げて空洞化が起きる、だから「国際的整合性」「国際競争力の維持」が大事なんだと述べています。つまり、大企業や金持ち増税ではなく、大衆増税にすべきだと述べています。

増税の方向、増税の哲学

 政府税調のいう増税の方向、哲学は何か。
 一つは、「景気に左右されない安定的な構造が必要」だと述べています。法人税とか事業所得の課税は景気に左右されます。一方、消費税や外形標準課税は景気に左右されない安定的な構造です。だから消費税を中心に増税するという考えです。
 外形標準課税について触れます。石原知事の外形標準課税は、東京に本店のある資金量五兆円以上の大銀行を対象にしたものです。業務純益は最高なのに、不良債権があるから税金を払わない。国から公的資金をもらっているのに、中小企業には貸し渋りをする。こういう大銀行に限った課税は賛成です。
 しかし、政府税調のいう外形標準課税は、事業活動価値に課税するもので七割は給与です。極端にいうと給与課税です。導入されれば、中小企業には大打撃になります。それだけでなく、給与を減らそうという圧力になり、賃金引き下げなどリストラ促進になります。労働組合にとっても重要な問題です。
 外形標準課税は都道府県税ですから、財政赤字に悩む都道府県は、この導入を望む声が高まっています。財政学者の中にも、地方の財源として賛成している人もいます。しかし、導入を強行すれば、中小企業の営業をさらに悪化させるか、消費税と同様に滞納が続発するでしょう。地方自治体の財源については、国と地方のバランスも含めた抜本的な見直しが必要です。
 政府税調は、景気に左右されない税制度を強調することで、消費税増税の方向を明確に示しています。
 増税の哲学として「税金とは国民全体が広く負担すべきもので、課税ベースを広くすべき」と述べています。これまで政府税調は「広く薄い負担」と言っていましたが、「薄い」を削除しました。
 具体的には、まず「所得税の課税最低限引き下げ」です。これまで所得税を納めていなかった低所得者からも税金を取ろうということです。次に、消費税は増税するが、「消費税における非課税の拡大や軽減税率の否定」です。つまり食料品等の非課税はやらないということです。また、「中小企業の簡易課税など『恩恵』の縮減または廃止」も指摘しています。さらに「給与を中心とする外形標準課税」の導入です。「相続税の中小資産家への拡大」も打ち出しています。大金持ちの相続税率を引き下げる一方で、これまで相続税を課税していなかった層に広く負担させようということです。

重要なポイント

 重要なポイントにふれます。一つは、社会保障負担と税負担の選択の問題は論議すべき問題です。国民年金の三分の一が未納や滞納で、国民年金のシステムが崩れつつあります。介護保険も、保険料や利用料など自己負担は増えるのに介護サービスは低下する。ですから以前の「措置制度」のように、低所得者に対する社会保障は税でやるという議論があっていいと思います。ただこの議論は、うっかりすると福祉目的税という議論に持っていかれるので注意が必要です。
 福祉目的税について一言ふれておきます。自由党や民主党も福祉目的税を主張していますが、政府税調は、福祉目的税に非常に消極的です。その理由は、消費税の使い道を社会保障に限定されては困るからです。将来、消費税を大幅に引き上げて、赤字公債の償還や防衛費を含めて幅広く使いたいからです。
 二つ目は、所得再配分機能の問題です。答申の方向で、消費税を中心に増税すれば所得格差はますます拡大します。一方で答申は、所得格差が拡大しているので所得再分配機能は重要だと述べており、矛盾する内容になっています。
 三番目は、政府税調は公平、中立、簡素が税の基本であると強調しています。これまで「消費税は逆進性がある」と言ってきたのに、今回は「消費税は公平だ」と開き直っています。競争社会だから規制してはいけない、規制緩和をすることが中立だと言っている。これもでたらめな論理で、中小企業は五%の消費税が転嫁できなくて苦しんでいる。大企業はきちんと転嫁して、しかも輸出企業には戻し税がある。中立ではありません。また簡素化という名目で、大企業・金持ち減税を行いました。政府税調のいう「公平、中立、簡素」は、低所得者や中小企業など多くの国民には公平とは言えません。
 国民の所得や資産には格差があるので、その能力に応じ税負担をする応能負担こそ公平な税制の原則です。それを通じて富を社会的に再配分する。具体的にいうと累進課税と最低生活費非課税が基本です。公平を言うなら大企業と金持ちに対する減税をやめて累進課税に戻すべきです。


アメリカ型の競争社会をめざす

 以上が政府税調「中期答申」の中味とその批判です。中期答申だけでなく、経済戦略会議や産業再生会議や経済白書など財界や政府が議論していることを全体的にみることが大事だと思います。政府や財界がどういう社会をめざしているのかを見抜くことです。一言でいえば、日本の産業社会構造を改革して、アメリカ型の競争社会をめざしています。優勝劣敗のはっきりする自由競争社会にしていく。大競争の時代だから、国際競争力が必要だ。農業や中小企業など弱い産業を守ってきた規制はどんどん緩和、廃止して市場原理にまかせようということです。産業再生会議は、国際競争力のためにリストラをやれば税制面で優遇すると言っているわけです。そして競争に負けたり、リストラなどで失業者が増えれば社会保障費が増大するが、それは庶民の負担、大衆増税でやる。これが一貫した流れです。だから様々な答申や報告書をあわせて読む必要があります。
 大衆増税を主張しているのは税調や政府与党だけではありません。野党第一党の民主党は福祉目的税に賛成しています。また総選挙では「課税最低限の引き下げ」を打ち出しました。さらに銀行救済のときに、何十兆円という公的資金を提案したのは民主党の菅氏です。それを自民党が丸飲みしました。鳩山氏は憲法改正を公然と口にしています。民主党を支持している労働組合の人たちは、こういう政策に賛成できるのでしょうか。私は民主党の政策にも批判が必要だと思います。民主党中心の政権がよりましだというのもおかしいと思います。
 中期答申の内容をテレビや新聞を通じて繰り返し宣伝し、社会保障を削減し、消費税を中心に増税やむなしという世論をつくる。そして、来年の参院選挙後に、具体的な増税の数字を出していく。これが政府の計画だと思います。政府与党は増税に対する国民の反発を恐れています。政府税調のでたらめな論理を広く批判し、自信をもって大衆増税反対の世論と運動を展開すべきだと思います。
 (文責編集部)