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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2000年5月号
 

再開された日朝国交正常化交渉
その成否が二十一世紀の日本を左右する


参議院議員  清水澄子


 朝鮮半島のダイナミックな動き

 日朝関係は、一九九〇年代のはじめに、金丸訪朝団による三党共同声明で「前提条件なしに国交正常化交渉に入ろう」と約束し、改善へ動き出しました。しかし、国交正常化交渉は第七回会談でもろくも崩れてしまいました。
 アメリカは一九九五年に東アジア戦略を発表し、それに基づく日米安保条約の再定義、日米新ガイドラインを日本に押しつけてきました。アメリカの世界支配のための軍事戦略に、日本は共同の責任をもつよう迫られたのです。
 そして、北朝鮮脅威論が声高に叫ばれ、今にもミサイルが飛んでくるなどと宣伝されました。北朝鮮を標的にして、朝鮮有事を前提にした周辺事態法などが次々と通りました。あとは有事法制だというのが政府の既定方針です。有事法制に必要な憲法改正論議も進んでいます。
 そういう中で、昨年のペリー報告などを境に、北朝鮮は活発な外交を展開してきました。一月にはイタリアと国交を樹立しました。七月にはフィリピンと国交を樹立します。ASEAN議長国のタイに対して、ASEAN地域フォーラム(ARF)に参加したいと積極的に働きかけています。
 そして、四月から国交正常化のための日朝交渉が始まりました。六月には南北首脳会談が開かれることになりました。同じ民族でありながら分断を余儀なくされた南北が、対話を開始することになったのです。これは歴史的な出来事です。
 韓国の大統領は金大中氏です。彼は絶えず民族の統一を主張してきたため、当時の韓国政府によって日本から拉致されたり、光州事件で死刑判決を受けたり、何度も死に直面してきました。このように、民族統一という悲願のために闘ってきた人が大統領だということは、とてもいいタイミングです。
 昨年までの流れとは対照的で、感慨深いものがあります。日朝国交正常化と南北対話が進めば、東北アジアの平和にとってきわめて重要なことになります。米ソ冷戦構造の崩壊後も東北アジアに残されていた状況を改善する、ダイナミックな動きです。しかし、残念ながら日本政府の態度は受動的です。

 日朝交渉の成功を

 「韓国併合」以来、百年が経過しようとしています。一世紀にわたる日朝間の不正常な関係をただすことは、日本がどうしても解決しなければならない課題です。日朝関係を正常化させることによって、朝鮮有事などということを過去の遺物にしなければなりません。今回の日朝交渉はそれを実現するチャンスです。
 日朝交渉が始まったのですから、日本はまず人道的な食料支援をきちんと行い、誠意を示すことが大事だと思います。人道的な食料支援をかけひきの道具にしてはなりません。
 日朝正常化のためにもっとも重要なことは、日本が犯した過ちを素直に認めて謝罪し、償いをきちんとすることです。過ちを認めず謝罪しようともしない相手を、誰が信用するでしょうか。過ちを認めて謝罪することは、相手におもねることではありません。逆に、相手の信頼を得ることになります。謝罪と償いは、両国の間に友好関係を築く上で不可欠なことであり、アジアの一員として信頼される第一歩です。アジアの中で生きていかなければならない二十一世紀の日本にとって、とても重要なことです。
 過去の清算に関して外務省は、一九六五年の日韓条約にこだわっているようです。しかし、日韓条約は過去の過ちへの反省が不十分で、賠償金額も当時の日本の経済力に制約されていました。日韓両国とも国民が強く反発し、強行採決でやっと批准されるありさまでした。無償三億ドル、政府借款二億ドルという当時の賠償金額は、およそ問題になりません。日本は主体的に過去の過ちをきちんと反省し、相応の償いをすべきです。科学技術の支援についても積極的に行うべきだと思います。そうした誠実な対応をすれば相手に通じると思います。
 いわゆる拉致疑惑が解決しなければ正常化しないという外務省の態度はよくありません。証拠すらはっきりしない問題を取り上げて、交渉の材料にするのは姑息なやり方です。日本が行った大量の強制連行は、明白な歴史的事実、犯罪行為であり、拉致疑惑などとは比較になりません。疑惑ではなく明白な金大中氏拉致事件を闇に葬り、政治決着したのは日本政府です。議論するのならば、別にすべきです。

 許しがたい石原発言

 国交正常化のための日朝交渉が再開されて、明るい兆しが出ているその時に、石原都知事は陸上自衛隊練馬駐屯地で、「不法入国した多くの三国人、外国人が非常に凶悪な犯罪を繰り返している」、「もし大きな災害が起こった時には大きな騒擾(そうじょう)事件が想定される」、「そういう時には皆さんに出動していただき、治安維持も大きな目的にして遂行してほしい」と発言しました。三国人とは、戦後の混乱期に在日の朝鮮人や中国人をさして使った蔑称です。
 関東大震災の時、当局が国民の不安をそらすために、朝鮮人が騒動を起こすという流言飛語を流し、数千人の朝鮮人が殺害されました。石原発言はこれと同じ文脈で、在日の朝鮮、韓国の人々を蔑視し、治安の対象とする許しがたい発言です。
 石原発言は、日本人の意識の中にある朝鮮人蔑視の感情を刺激し、歴史の経過を知らない若い人たちに朝鮮人蔑視の感情をうえつけるものです。「南京大虐殺はなかった」という自由主義史観の動きと同じで、日の丸・君が代、天皇制、憲法改正の問題にもつながっています。また、自衛隊を軍隊といい、自衛隊の治安出動が必要だという発言は、有事法制化の流れと結びついています。
 石原知事のこのような発言を見過ごしにはできません。厳重に抗議し、その責任を追及していく必要があります。それと同時に、在日外国人、とりわけ在日の朝鮮人・韓国人の人権をきちんと保障していかなければなりません。とくに若い人たちは、なぜ何十万人もの朝鮮人が日本に住んでいるのか、歴史経過を知りません。日本が朝鮮民族に対して何を行ったのか、強制連行や関東大震災の朝鮮人虐殺など、きちんと歴史教育すべきです。植民地支配だけでなく、朝鮮戦争によって日本経済が復興した事実も忘れてはなりません。
 朝鮮戦争の時に、アメリカの戦略にそって日本の再軍備が始まり、警察予備隊、保安隊、そして自衛隊へと進んでいきました。憲法改正論議が高まりました。日朝正常化交渉がストップした九〇年代は、朝鮮脅威論、朝鮮半島危機説が声高に宣伝され、日米安保条約が強化拡大され、新ガイドライン関連法が整備されました。そして今、憲法改正の動きが強まっています。
 すべて朝鮮半島を口実にして、アメリカの戦略にそいながら、日本の反動化が進んできたのです。だからこそ、日本と朝鮮の友好連帯の大きな流れをつくり上げ、国交正常化を実現することが、ますます重要になっています。(文責編集部)