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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2000年5月号
 

アジアの共生に逆行する

石原知事の危険な「三国人」「治安出動」発言

広範な国民連合代表世話人 槙枝元文


 時代錯誤の歴史認識

 東京都の石原知事は陸上自衛隊の練馬駐屯地で開かれた記念式典で、「不法入国した多くの三国人、外国人が非常に凶悪な犯罪を繰り返している」「もし大きな災害が起こった時には大きな騒擾(そうじょう)事件が想定される」「そういう時には皆さんに出動していただき、治安維持も大きな目的にして遂行してほしい」と発言しました。
 これを新聞で読んだとき、すぐに石原知事の本音が出たと思いました。彼はもともと国粋主義者、大国主義者、エリート意識で固まった人です。銀行に対する外形標準課税の導入問題で、金融機関に不満を持つ都民、国民から喝采を浴びたのに気をよくしていたところへ、自衛隊で挨拶するチャンスがあったものだから、ついつい本音が出てきたのだと思います。
 「三国人」という言葉は、第二次大戦後の混乱期に、日本国内に住んでいた旧植民地出身者の中国人や朝鮮人をさして使った蔑称、差別的な言葉です。石原知事は記者会見で、「三国人は外国人という意味だ」「マスコミの報道の仕方が悪い」などと開き直っていましたが、非難が高まる中で、「これからは三国人という言葉は使わない」と言わざるを得ませんでした。しかし、それでことが解決するわけではありません。石原知事には、自分は日本人の中のエリートであり、日本人はアジアの中のエリートであるという、強烈なエリート意識があります。その裏返しとして、中国人や朝鮮人を蔑視する意識が根強くあります。アジアの一員という意識はなく、アジアの共生とはまったく逆の発想です。
 大きな災害時に「三国人」が騒擾事件を起こすことが想定されるから、そういう時には自衛隊に治安出動を要請したいという発言は、関東大震災を思い起こさせます。あの時は、日本軍と警察がデマを流して、六千人を超える朝鮮人を虐殺しました。ところが石原知事には、警察や軍当局が虐殺にかかわったという史実に基づく歴史認識がありません。四月十二日の都庁での記者会見でそのことを指摘されて、訂正するありさまでした。そういう歴史認識で、朝鮮人や中国人が暴動を起こすと煽っているのです。
 太平洋戦争に対する認識も同様です。欧米の植民地支配に対抗して日本が統治してやるという発想で、太平洋戦争が侵略戦争だったという認識はありません。日本が戦争をやったおかげで、かつての植民地が独立できたという認識です。南京大虐殺も三十万人ではなく三万人くらいではないか、と言っています。このように石原知事は自由主義史観の持ち主で、史実に基づいた歴史認識とはまったく違います。
 台湾問題にしても、台湾の主張を支持するとか、独立国だということではなく、台湾は日本の属国だという気持ちが強いのではないでしょうか。台湾が中国に復帰して中国が統一することは、日本が属国を失うことだという意識です。そういう大国意識、中国に対する蔑視の感情が前提にありますから、日中平和友好条約を無視して台湾に出かけるし、李登輝を日本に呼ぼうという話になるのだと思います。
 石原知事は中国が経済的に発展していることに脅威を感じ、ドイツの雑誌のインタビューに応えて、「中国がいくつかの小国に分裂すればよい。日本はそうした展開を促進すべきである」と述べています。雑誌『諸君』三月号でも、「日本の金を使って沿海州などの中国の周辺に自治区みたいな地域をどんどん作る戦略をすぐ行動にうつすべきだ」「そうすれば、中国の国内分裂の動きを加速させることができる」「分裂させなければいけない」と、あからさまに述べています。
 中国を蔑視し中国に脅威を感じている石原知事は、中国の力を抑制したい、中国を各省ごとに独立させて、戦国時代の中国のようにして分裂支配したい、という発想をもっているのです。それにアメリカの手を借りようということです。
 私は、中国が発展するのを抑制することはできないし、日中友好という大きな流れは変わらないと確信しています。石原知事のこのような発想は、アジアの共生という時代の流れに完全に逆行するものです。
 このような人物が首都・東京の知事であることは許されません。石原知事は辞任すべきだと思います。

 石原発言の背景

 背景には、アメリカが一九九五年に東アジア戦略を発表して以降の流れがあります。中国がアメリカの対抗勢力となることは許さないと、東アジアに十万の米軍を維持し、硬軟両用でじわじわと中国をしめあげていく戦略です。アメリカはその戦略にそって、日米安保共同宣言と新ガイドラインで日本に周辺事態法をつくらせました。
 これに乗じて、周辺事態法の他に、盗聴法や日の丸・君が代法などの反動立法が次々につくられました。憲法調査会が国会に設置され、改憲の動きが本格的になってきました。そういう中で、自民党や政府の中には、アジアとくに中国に対する大国的な意識が強まっているのではないかと思います。
 九八年秋の江沢民訪日のさいの国内の空気もそうでした。小渕首相は歴史認識や台湾の問題で明確な態度を示さず、保守勢力の中には「小渕首相が中国の主張を突っぱねたのが良かった」という雰囲気がありました。日中平和友好条約締結二十周年にもかかわらず、江沢民訪日を歓迎し日中友好を促進しようというムードは高まりませんでした。
 中国の内政である台湾問題でも、台湾支持という雰囲気が作り出されています。さすがに政府レベルでは公然と日中平和友好条約に反するわけにはいきませんが、政党レベルでは与党の自民党から野党の民主党まで、中国の反発を承知の上で、陳水扁氏の台湾総統就任式にかけつけます。日中平和友好条約にもかかわらず、事実上、台湾を独立国扱いする雰囲気がかもしだされています。
 こうした背景のもとで、石原知事の発言は、自民党や政府が内部に異論もあって、外交上の考慮からも発言をさしひかえてきた本音を、ずばり代弁したものだと言えます。それが国内政治に及ぼす影響に注意しなければなりません。
 国粋主義、エリート意識、大国意識にこりかたまった石原知事の発言は彼の本質から出てきたもので、日本国民の多くは石原発言に反対だと思います。石原知事への抗議行動も始まっています。
 しかし、石原発言に便乗して、これまで黙っていた国粋主義的な連中が石原発言を肯定する動きを活発化しています。こうした動きは、アジアの平和や共生にとって、非常に大きな障害となります。
 このような状況に慣らされてはいけません。石原知事のような史実に反する歴史認識が広がることは恐ろしいことです。時代錯誤の歴史認識を批判して、正しい歴史認識を広げる必要があります。(文責編集部)