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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』1999年10月号
 

サミット開催で県民はごまかされない
基地の県内移設は絶対に許さない


弁護士 金城 睦



 基地強化をねらう沖縄サミット

 普天間基地の移設問題の第一のポイントは、沖縄側からの要求に沿って、日米両政府が実現させるという形になっていますが、本質は違うということです。アメリカは普天間移設をずっと以前から計画していました。最新の機種を配備するには老朽化した普天間基地では不都合であり、新たな場所に移したいという要求をもっていた。そこに1995年9月の少女暴行事件が起きて沖縄県民の普天間基地返還の声が高まった。アメリカは普天間基地返還という県民の声を逆手にとる形で、普天間基地返還と新たな代替基地建設を提案した。決して橋本首相が沖縄県民のために決断したことではありません。
 ヘリ基地建設の候補地とされた辺野古を抱える名護市で、97年12月に市民投票が行われ、市民はヘリ基地建設計画を明確に拒否しました。95年10月の県民総決起大会、「基地の整理・縮小」についての県民投票をはじめ少女暴行事件以来の県民世論は一貫しています。「米軍基地の整理縮小・撤去、基地のない平和な島」をめざすのが県民世論であり、県内移設などは認めないというものです。
 県内移設の根拠とされているのが日米特別行動委員会(SACO)合意です。しかし、SACO合意の県内移設は基地の機能強化であり、基地の固定化です。昨年秋、利益誘導型の県知事選挙が行われ、稲嶺知事が誕生しました。稲嶺県政は、SACO合意が基地の整理・縮小につながるといいますが、これは日米両政府のペテンです。沖縄県民はこれまで一度も基地建設に同意したことはないので、今回、県民の代表である知事が基地建設を承諾するとなれば由々しいことです。
 沖縄の県民運動を恐れる日米両政府は、むき出しの力ではなく、利益誘導の地域振興策や米軍用地特措法改正など巧妙な策略を使ってきています。そういうやり方も県民はだんだん見抜いてきて跳ね返す方向に動き出した。その中で大きな仕掛けとしてサミット沖縄開催が決定された。
 サミットが沖縄に大きな利益をもたらすとは思えません。一部には、沖縄の過密な基地の現状を見てもらえば、主要国の首脳たちも同情し、反省してくれるのではないか、という意見もあります。しかし、サミットの構成国はコソボ紛争に介入し空爆をしたNATOの主要国であり、アジア地域での覇権主義国です。軍事力による世界支配という共通の視点に立っています。とくにアメリカは沖縄サミットを利用して、東アジア地域と世界に対して、沖縄の米軍基地の強大さを誇示するに違いありません。
 六月の「基地問題が未解決な状態では沖縄サミットに行きたくない」というクリントン発言をきっかけにして、日米両政府による稲嶺知事への圧力は強まりました。一刻も早く代替ヘリ基地の候補地を挙げなさい、という圧力です。県民の頭越しにはやらないといって、沖縄県民の代表である稲嶺知事が決めたという形にしようとしています。
 名護市民投票の時、政府は地域振興と基地建設をリンクさせて名護市民を分断懐柔しようとしました。今回は、サミット開催という大がかりな仕掛けですが、ヘリ基地建設など基地の県内移設による基地の強化・固定化をねらうサミット開催であることは明らかです。年内にも稲嶺知事が候補地を表明するという状況になっています。

 県民あげての運動に

 私たちは県民あげて、その本質を暴露し、闘っていかなければと考えています。そこでサミットをにらんだ新しい組織として8月14日に、「沖縄から基地をなくし世界の平和を求める市民連絡会」が、97年にできた「海上ヘリ基地建設に反対する市民団体連絡協議会」の参加団体を中心に33団体が参加して発足しました。
 サミットに向けての市民運動としては様々な取り組みを計画しています。世界の支配者のサミットに対抗して、民衆の立場、とくに最も虐げられている世界の先住民族の会議とか、軍事力の対極にあるものとしての世界の民族芸能祭とか、軍事力が不幸を招いたことをアピールするために摩文仁の丘の「平和の礎」で全員喪服の集会とか、さらに普天間基地か嘉手納基地を人間の鎖で包囲する行動も検討しています。沖縄県民が主体となりながらも、全国、全世界にアピールしたい。
 9月27日には、「普天間基地・那覇軍港の県内移設に反対する県民会議」(略称・基地の県内移設反対県民会議)が発足しました。この組織は市民団体だけでなく、労働組合や政党も含めた全県的な組織です。10月23日には1万人規模の県民大会を開く予定です。
 県当局は「名護市民投票で否定されたのは海上ヘリ基地案。陸上案や埋め立て案は否定されていない」とごまかしの発言をやりだしてきました。しかし、名護市民投票は海上、陸上にかかわらずヘリ基地建設を拒否たもので、それが市民の意思です。9月25日に辺野古区の最高決定機関である行政委員会が、「陸上案、埋め立て案でもヘリ基地建設に反対」を決議したのをはじめ、久志区や豊原区でも同旨の決議をしました。
 日米両政府の圧力の中で、たとえ稲嶺知事が普天間の代替ヘリ基地の候補地を発表しても、沖縄県民はこれを許さないでしょう。

 稲嶺県政による沖縄戦の改ざん

 稲嶺県政に変わって、基地問題以外でも大きな変化が起こっています。沖縄戦の改ざんの動きです。
 一つは来年3月に開館予定の県の新しい平和祈念資料館の展示内容の見直し問題です。糸満市の摩文仁の丘にある県の平和祈念資料館が老朽化したので新しい平和祈念資料館が建設されます。その展示内容を検討してきた新資料館監修委員会の承諾を得ず、県が勝手に展示内容を変更しようとしていたことが発覚しました。沖縄戦における日本軍の残虐性をうすめようとする変更です。例えば、キャプションの「虐殺」を「犠牲」に変えたり、住民と日本軍が避難していた壕(ごう)内の銃を持った日本兵の手から銃をとった模型にしたりしました。
 もう一つは、5月に開館した県の八重山平和記念館(石垣市)の展示物説明文を、監修委員会や専門委員会へ説明もせず県が勝手に変更した問題です。八重山では沖縄戦の時、住民が日本軍によってマラリア病の発生地帯に強制退去させられて多くの人が死んだのですが、この軍による「強制退去」の文言を県が独断で「避難命令」に変更しようとしていたことも判明しました。
 稲嶺県政による沖縄戦の露骨な改ざんに対して、監修委員、沖縄戦の体験者、八重山戦争マラリア遺族会をはじめ県民規模で抗議の声が上がっています。抗議の緊急シンポジウムも開かれました。激しい県民の反発で、県は検討過程といいはったり、一部を撤回したりしました。沖縄戦の歴史の改ざんと基地の県内移設、この二つの問題が重なって稲嶺県政への怒りと反発が倍加しています。
 周辺事態法など反動的法案が次々と国会を通過し、政治の流れが危険な方向に進んでいるのも事実ですが、私たちは無力感など感じている余裕はありません。例えば、日米安保体制を是認する国民がいつも多数なのに、少女暴行事件を契機に県民が島ぐるみの大運動を展開、それが全国に広がった結果、短期間の間に世論が変わり、日米安保に賛成と反対が同数になったことがあります。国会の状況がどうであろうと、全国民が真実を知り、怒りを持って行動を起こせば、いまの状況を打開することは可能だと思います。
 日本政府がアメリカと一緒になって、内閣の命運をかけてヘリ基地建設をはじめ県内移設をするために県民に襲いかかっています。沖縄県民は全力で闘いますが、日本全体の政治を変えるのは県民だけでは不可能です。沖縄問題を全国民の問題として受け止め、政治を変えるため全国の皆さんが本気で立ち上がっていただくことを期待したいと思います。
(文責編集部)