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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』1999年10月号
 

国民無視の自自公路線で高まる批判の声
二度と加害者にも被害者にもならない平和運動を

憲法擁護・平和・人権フォーラム事務局長、
原水爆禁止日本国民会議事務局長 

 佐藤 康英



国民無視の反動法

 戦争協力のための周辺事態法に反対し、憲法フォーラムは毎月1回のペースで1年以上(19波)にわたって、集会や学習会を開いて、世論喚起や運動の積み上げを行ってきました。予想したより多くの参加者が集まりました。ただ、国会内の論戦は不十分で、法案を阻止するほどの世論を形成できませんでした。しかし、取り組みを通じて、周辺事態法の危険性についての理解は確実に広がったと思います。米軍艦船の入港や日米演習などが行われた地方での取り組みの参加者は多かった。
 国旗・国歌法にも、私たちは法制化に反対しました。「日の丸・君が代」を拒否する人々と、歴史認識のあいまいさから是認する人々が存在し、国論は二分していました。国論が二分していたのに、国会議員の数の力で強行したことは非常に大きな問題です。またそれを阻止できなかった大衆運動の側の弱さも課題として残ったと思います。
 自自公体制によって様々な反動法案を通過させましたが、国民は決して納得しているわけではありません。自自公路線で突っ走っている故に、逆に国民の批判が着実に広がっています。運動する側は、阻止できなかったという課題は残っていますが、あきらめたり、無力感に陥ってはならないと思います。国民の中にある怒りや不満、様々な市民運動の中にある積極的な運動などを受け止め、地道な取り組みを積み重ね、大きな運動に発展させることが必要です。

今後の取り組み

 周辺事態法が成立して、労組を中心に危機感が強まっています。私の出身の自治労でも、8月の大会で平和運動に対する期待する発言が多く出されました。10月に発足する「平和フォーラム」(仮称)の運動に対しても期待が高まっています。
 今後は周辺事態法を適用させない運動が必要だと思っています。一つは国際情勢あるいはアジアの情勢に機敏に反応することです。周辺事態法は、主要には朝鮮民主主義人民共和国の動向に対応するものとして作られた経過があります。本来、国交がなくても、あらゆる手段を通じて相手国の政治家と接触し、緊張緩和のために身体を張って努力するのが政治家だと思います。それをやらず、相手国の悪口を言って国民の不安感をあおり、軍事的に対抗するということでは何のための政治家かと言いたくなります。国の体制が違っても、中国とは国交を回復し日中平和友好条約を結んでいます。ですから、政治家がやる気になれば朝鮮民主主義人民共和国とも国交正常化はできると思います。隣国と和解できない政治家に、アジアの平和とか、世界の平和をいう資格はないと思います。政府には国交正常化の実現を要求していきたい。
 私たち平和団体は、朝鮮民主主義人民共和国の平和団体との交流などを通じて、緊張緩和、友好交流の役割を可能な限り果たしたい。原水禁は広島・長崎を中心に、今年の夏にピョンヤンで原爆展を開きました。労農市民会議は、休耕田で作った米を共和国に送る運動を全国的に展開しています。憲法フォーラムとしても民主党と協力して、非常食20万食を送りました。そういう取り組みを強めることが周辺事態法を適用させないことにつながると思います。
 二つ目は、国内の問題です。周辺事態法が適用されれば、政府は地方自治体や民間企業に対して具体的な協力を要請することになります。そのために政府は、各自治体への協力マニュアルを最終的に決めつつあります。自治体関係では、港湾、病院、空港関係などが対象になります。その要請を首長が受ければ、自治体の職員に対しては職務命令が出されることになります。その職務命令を拒否すれば処分などが予想されます。ですから、自治体への協力マニュアルの一つ一つを具体的に点検し、自治体の首長と交渉し、歯止めをかけることが必要です。政府の協力要請を受けないようにする取り組みを最大限努力したい。
 衆参両院に憲法調査会が設置されることになりました。改憲の動きが強まっていますので、平和団体や労組内部でもきちんと議論する。そして国民全体に働きかけて、憲法前文や憲法九条を含めた日本国憲法の平和主義を、揺るぎのない国民世論に高める取り組みにしなければと思っています。

加害責任を明確にした平和運動を

 アジア諸国に対する戦争責任、歴史認識の問題は重要だと感じています。戦後の歴代の日本政府がこの問題をあいまいにしたことは明らかです。同時に、労働運動も含めて平和運動全体も、この問題を解決しきれずに来たのではないか。その結果、戦争責任や歴史認識について国民世論はあいまいになり、周辺事態法や国旗・国歌法などの反動法案を阻止できなかった背景の一つになっているのではないかと思います。
 多くの日本国民が軍国主義の流れの中で戦争に動員され犠牲になったことも事実ですが、アジア太平洋地域の人たちからみれば日本人は明らかに加害者でした。しかし、肉親が戦争にかり出され戦死したとか、原爆や空襲で犠牲になったということで、多くの日本人は戦争に対して被害者意識を強く持っています。そういう戦争体験をした親の世代の被害者意識を子供である私たちの世代が引き継ぎました。
 戦後教育にも問題がありました。学校の授業は、現近代史はおざなりで幕末か明治維新あたりで授業が終わる。しかも、教科書には日本による侵略戦争の実態が反映されなかった。その結果、戦後世代の人たちも正しい歴史認識を持てないでいます。自分の体験でも、学校の先生が「アジア諸国を侵略した日本は加害者だよ」と教えてくれていれば、もっと早く気が付いていたと思います。
 戦争を知らない世代にとって、親や祖父母の世代が加害者であったことはショックだと思います。しかし、動かしようのない歴史的事実です。アジアの人たちに何をしたのか、なぜ軍国主義に流されたのか、どうすれば平和を守れるのか等きちんと教える必要があります。
 日本の平和運動が、加害者意識を重視し始めたのは10年くらい前からです。戦後半世紀を意識した運動を展開する時期だったと思います。アジアの戦争被害者の声が届くようになったこともあり、長崎の被爆者運動や市民運動の中で、戦争の加害責任を明確にした平和運動にすべきという動きが強まってきました。それでも日本人全体の歴史認識、加害責任はあいまいだと思います。
 日本による36年間の朝鮮半島の植民地支配、50年間の台湾支配、中国大陸や東南アジアへの侵略等々、これらは誰がなんと言おうと動かしがたい歴史的事実です。日本はその反省、整理を最初にやるべきです。
 朝鮮半島に対しては、韓国併合以来、植民地支配し、朝鮮半島の人々の名前を無理やり日本名に改めさせ(創氏改名)、日本人として扱っておきながら終戦と同時に日本人ではないと放置した。従軍慰安婦問題や、大量の強制連行の問題もあります。36年間の植民地支配について謝罪し、補償すべきです。とくに朝鮮民主主義人民共和国とは国交がなかったという理由で、問題が何一つ解決していません。戦争責任、戦後責任をきちんとして、国交正常化を実現すべきです。その上で、解決すべき問題を一つずつ議論していく。不信感だけをあおる手法は、日本とアジアの平和に何一つ役立たないどころか対立関係を深めるだけです。
 日本が戦争の加害者責任、戦後責任があいまいなため、アジア諸国の人々は、いまなお日本人に対する悪感情をもっています。このままでは21世紀になっても、アジア諸国の人たちから本当の意味で信頼されない。歴史認識をアジア諸国の人たちと共有できるような努力が必要だと思います。歴史的事実を受け止め、二度と加害者にも被害者にもならない。そういう平和運動にしなければなりません。
(文責編集部)