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資料
 

21世紀に向けた新たな中小企業政策の在り方についての
中間答申

                      平成11年8月20日
                      中小企業政策審議会

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(目次)
第1部 21世紀を展望した中小企業政策の基本的考え方
 第1節 中小企業を取り巻く環境変化
   1.我が国経済及び中小企業を巡る環境変化
    (1)マクロ経済環境の変化
    (2)価値観、ライフスタイルの変化
    (3)グローバリゼーションの進展と産業構造の変化
    (4)企業間関係の変化
    (5)産業集積の変容及び流通構造の変化
   2.21世紀初頭の我が国経済社会の展望
    (1)不確実性の増大
    (2)多様性と創造性の重要性の増大
    (3)少子高齢化の進展と環境・エネルギー制約の増大
    (4)情報化の進展
   3.環境変化の中での中小企業の動向
    (1)事業所数・企業数の減少
    (2)中小企業の多様性の増大
 第2節 中小企業に期待される役割と政策の基本理念
   1.21世紀の中小企業像
    (1)市場競争の苗床
    (2)イノベーションの担い手
     @多様な財・サービスの提供
     A新たな分業関係の形成
    (3)魅力ある就業機会創出の担い手
    (4)地域経済社会発展の担い手
   2.中小企業政策の基本理念と政策の目標
    (1)新たな中小企業政策の理念
    (2)政策の目標
     @競争条件の整備
     A中小企業の経営の革新や創業の促進
     Bセイフティネットの整備
   3.小規模企業政策についての考え方
第2部 具体的政策の方向
 第1節 経営の革新及び創業に向けての自助努力支援
    (1)経営の革新の促進
    (2)独創的技術等を利用した事業活動の促進
    (3)創業の促進
    (4)商業・サービス業の経営革新
 第2節 競争条件の整備
    (1)資金供給の円滑化と自己資本の充実
    (2)経営資源の充実強化
    (3)連携の促進
    (4)人的資源の充実
    (5)取引の適正化と国等からの受注機会の確保
 第3節 経済的環境等の著しい変化への適応の円滑化
    (1)基本的考え方
    (2)経済的環境等の著しい変化に対する緊急避難的措置
     @措置の類型
     A適用の条件
    (3)セイフティネットとしての保険的システムの整備
    (4)倒産法制の整備
第3部 中小企業政策の対象と政策実施体制
 第1節 中小企業者の範囲
    (1)基本的考え方
    (2)見直しの方向
     @中小企業者の定義
     A小規模企業者の定義
     B創業者の取り扱い
    (3)政策対象の検討に際して留意すべき事項
 第2節 政策の実施体制
    (1)政策評価の充実と施策の利便性の向上
    (2)中小企業団体の機能強化
    (3)民間能力の活用
    (4)地方公共団体との役割分担

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第1部 21世紀を展望した中小企業政策の基本的考え方

第1節 中小企業を取り巻く環境変化

1.我が国経済及び中小企業を巡る環境変化

 我が国経済が戦後復興から高度経済成長へと歩み始める中で、大企業と中小企業との生産性の格差など、いわゆる「二重構造」を背景とする「格差の是正」を政策理念とする中小企業基本法が制定されてから36年が経過した。この間、我が国をとりまく経済的社会的環境は大きな変化を遂げた。中小企業もこの大きな環境変化とは無縁ではあり得ず、中小企業の事業活動に新たな課題と機会をもたらしている。

(1)マクロ経済環境の変化

 戦後復興過程を経て、我が国は急速な経済成長を遂げ、比較的平等な所得配分を維持しつつ世界第二位の経済大国を実現した。このような中で、雇用者の所得水準等で大企業と中小企業との間には依然として格差は存在するものの、全般的な所得水準の向上に伴い、中小企業の従事者の絶対的な所得水準は相当向上し、格差の実態の意味を変容させている。
 他方、経済の成熟化とともに経済成長率は低下し、近年においてはゼロ成長の近傍で推移している。また、成長過程における設備投資や社会資本整備の結果、かつてのような設備投資が経済成長を牽引した経済から、研究開発や経営の革新等による付加価値の増加、資本の効率性や労働の質の向上等がより重要な経済へと移行している。

(2)価値観、ライフスタイルの変化

 こうした成熟した経済・社会へと移行する中、大企業を中心に年功賃金と長期雇用慣行の下で労働移動の乏しい安定的な労働市場が定着し、新卒で採用されて定年まで同じ職場で働くサラリーマンのライフスタイルが一般化した。しかしながら、転職希望者は増加しつつあり、特に近年の低成長経済下においては、会社の成長と永続性への信頼の揺らぎから、組織依存の生活設計のリスクと将来の賃金上昇に期待したサラリーマンのライフスタイルのメリットの減少が認識されつつある。
 他方、豊かな社会の実現で量的な充足感は満たされ、より高次の欲求である自己実現の重要性が高まり、多様性と個性を重んじる価値観に基づく消費スタイルへの移行が進んできた。このような消費者行動の変化により、生産者側では製品差別化が重要な課題となり、多様な財・サービスの供給に資する専門的な能力や技術を持った人材への需要も高まっている。

(3)グローバリゼーションの進展と産業構造の変化

 我が国の産業構造は、第1次産業が縮小し、第2次産業も昭和40年代後半以降シェアが縮小に転じる等成熟化が見られる中、第3次産業、特にサービス業が生産・雇用の両面でウエイトを高めている。また、国民の高学歴化、ライフスタイルや価値観の変化等も背景に、労働集約的産業から資本集約的産業、さらには知識集約的産業へと産業構造の大きな変化が進展している。
 経済のグローバル化はこの流れをさらに加速している。情報化、輸送手段の発達に加え、累次の多国間交渉の成果を反映した自由貿易の定着は、国内産業保護を困難なものとし、産業構造の変化を促進するとともに、先進国間での製品差別化競争が一層進展している。また、財・サービスの貿易のみならず、海外での事業活動が広範に行われるとともに、新たな技術や発想が伝達されるスピードが格段に速まり、生産活動や消費活動に新たな広がりを与えている。

(4)企業間関係の変化

 我が国の成長過程において大企業を中心として形成された従来の系列的な下請分業関係は、経済のグローバル化と産業構造の変化に伴い、近年においては流動化が見られ、下請企業数は全体として減少傾向にある。また、家電産業や自動車産業等では、製品や部品の電子化、モジュール化等が進行し、下請事業者の絞り込みも進展している。
 こうした中、脱下請、自立化を図る企業、企画・提案等を通じ大企業にとって不可欠なパートナーシップを形成している中小企業の例も見られるようになってきている。また、企業経営における柔軟性と機動性は一段と重要になり、対事業所サービス産業の成長とあいまって、企業業務の一部の外部化が進展する中で下請分業関係とは別の新たな長期継続的取引関係も広がりつつある。

(5)産業集積の変容及び流通構造の変化

 為替変動や企業活動の国際展開及びこれに伴う開発輸入の増加等により、地域の自律的発展や「ものづくり」の基盤である産業集積の弱体化が懸念されるようになっている。
 また、モータリゼーションの進展、消費者のライフスタイルの多様化等の中で、小売店舗の大型化、多様化が著しく、また商業機能の郊外化も進展しており、中小小売商業を巡る競争環境が大きく変化するとともに、情報化や規制緩和の進展等により業種・業態の変化など様々な流通構造の変化が生じている。

2.21世紀初頭の我が国経済社会の展望

 以上で示した環境変化は今後さらに進展することが見込まれ、中小企業が直面する21世紀初頭の我が国経済社会の展望とこれにより中小企業にもたらされる課題は、以下のようなものになると考えられる。

(1)不確実性の増大

 我が国経済のフロントランナー化に伴い、企業の事業活動は、これまでのキャッチアップの過程のように、世界の先行モデルに学ぶことはもはやできず、技術面、需要面等に関し高い不確実性に直面しつつ自らフロンティアを開拓していくという大きな課題を背負う。
 不確実性の高い経済においては、リスクを好機と捉える起業家精神の重要性が高まる。成長を当然の前提とすることのできた経済においては、リスクテイクするまでもなく生活水準の向上が当然のように受けとめられてきたが、不確実性の高い経済社会においてはリスクこそ収益をあげるチャンスとなる。就業者の大半をサラリーマンが占める就業構造であっても、創業に伴うリスクを適切に分担する仕組みを構築することにより、起業家の出現を促す社会を実現していくことが、我が国経済の今後の成長のために必要不可欠となる。

(2)多様性と創造性の重要性の増大

 成熟した経済においては、規模の経済を生かした画一的な大量生産・大量消費型の経済から、人々の要求は多様化、個別化する。このため、製品差別化・多様化を進め、消費者のニーズの動向にいち早く対応するという、企画提案能力・情報収集能力、意思決定の迅速性等の、規模とは別要因の優位性の重要性が著しく高まる。
 こうした中で、多様な知識や技術、個性や感性等ソフト面での優位性が企業活動の付加価値創造のより大きな源泉となる。

(3)少子高齢化の進展と環境・エネルギー制約の増大

 我が国の人口は、今後10年程度で減少に転ずると見込まれるが、これは人口増加の下で機能してきた雇用システムを現行のまま維持することを難しくするとともに、少子高齢化が進展する中で国民に信頼され将来にわたって安定的に運営できる社会保障制度を構築することが課題となっている。また、知識集約型産業への移行等人材の持てる創造性などの能力のより一層の発揮や、多様な就業形態による高齢者・女性の社会参画機会の一層の拡大が必要となるなど企業活動にも大きな影響を及ぼす。
 更に、21世紀においては、戦後の経済発展を支えてきた資源の大量摂取・製品の大量廃棄型経済社会システムは限界となり、環境・エネルギー制約が一層強まる。かかる環境制約への対応は、企業活動においても所与の与件となるとともに、他方で新たな事業機会も提供する。

(4)情報化の進展

 リアルタイムで大量の情報の入手・交換を可能とし、経済社会を革命的に変化させつつあるデジタル経済は、世界中で急速に進行し、日常生活、経済社会を急速に変化させつつある。企業活動においても、受発注や顧客ニーズの把握、管理、商品・在庫管理活動などの分野で情報ネットワークの活用が進展し、既存の企業組織や取引関係が大きく変化する一方、コンピュータネットワークを利用した高度な情報化に取り組むことにより、消費と直結したきめ細かい対応を実現した新形態の受注生産メーカーや流通産業など、企業の経営全般の革新を図る企業も出現し、急成長している。
 こうした情報化の進展は、インターネットを活用し、世界市場において幅広い事業展開を図る先進的な中小企業にみられるように、新たなビジネスの創造により、大企業ばかりでなく中小企業にとっても新たな存立の条件と成長機会を提供するものである。他方、情報化に対する取り組みの遅れる中小企業にとっては、事業機会を逸するのみならず、将来の発展の可能性も大きく制約されることになりかねない。

3.環境変化の中での中小企業の動向

 このような環境の変化の中、現在我が国では、開廃業率の逆転に象徴されるように、中小企業の「過多性」が問題とされた中小企業基本法制定時とは全く異なる状況にある。またその一方で、社会経済環境の変化に対応した中小企業も現れてくるなど、中小企業の多様性がより拡大してきている。

(1)事業所数・企業数の減少

 中小企業基本法制定時の事業所ベースの開業率は、年率6〜7%と高く、かつ、廃業率を大きく上回っていた。しかしながら、開業率はその後、長期的に低下傾向にあり、特に近年においては、3.7%(平成6〜8年年平均)と廃業率3.8%(同年)を下回っている。企業形態別に見ると、個人企業の開業率の低下が著しい。業種別にみると、製造業・小売業においては、逆転した開廃業率の差が、拡大する傾向にある。サービス業については、開業率が廃業率を上回っているものの、その差は縮小する傾向にある。また、最近では会社創業率も会社廃業率を下回っている。この結果、事業所数、会社数とも減少している。
 開廃業率の逆転は、産業構造の変化の中で、非効率な企業が淘汰されているという意味では経済全体の効率化に寄与する面があるものの、特に開業率の傾向的低下は、新たな発想や新たな企業経営スタイルを持って市場に新規参入する企業によってもたらされる経済の活力や、新規創業企業がその相当部分を担っている雇用創出の役割など、経済の新陳代謝機能の低下が懸念される。
 また、開業率の低下は地域経済にも大きな影響を与える。高度成長期のように、沿岸工業地帯を中心に工場の地方分散が進展した時代と異なり、今日は、企業の誘致・分散といった他律的要素に依存するのみでは十分に地域経済が発展することは望み得ない。地域経済の発展にとっては、その地域における内発的な創業と地域中小企業の経営革新が鍵となる。

(2)中小企業の多様性の増大

 高度成長期を経て、我が国の所得水準は全般的に大きく向上し、現在の一人当たり実質国民所得は、基本法が制定された昭和38年の約4倍に達している。かかる所得水準の向上は、かつて低生産性と低所得の悪循環にあるとされた中小企業従事者についても、実質的な所得水準、生活水準の向上をもたらしてきた。そのため、中小企業と大企業の格差は依然として存在はするものの、格差の実態の意味を変容させている。
 既に昭和55年の中小企業白書において、「格差はなお残存するとはいえ、かつての二重構造論において指摘された中小企業一般における低賃金と低生産性との悪循環は、既に35年以降の労働力不足経済への移行によって相対的に希薄になったといえよう。今日においては、中小企業の多様性を前提として、格差問題ももはや大企業と中小企業との格差だけを問題とする時代ではなくなっている」との総括を行っている。
 他方、近年の我が国を巡る経済環境の変化は、これまでの市場の競争条件をより激化させ、企業の経営にも、変化に対する機動性、他企業との差別化を強く求めるようになってきている。このような中で、低利益の企業が存在する一方で、大企業に遜色のない、あるいは大企業以上の利益率を示す中小企業も少なくなく、規模間の格差以上に中小企業間の多様性が目立つようになってきている。また、情報化を始めとする技術的与件の変化や、経済のサービス化等の産業構造の変化、金融ビックバン、規制緩和に代表される制度環境の変化も中小企業が多様化する一つの要因となっている。
 こうした中、細分化された専門分野(いわゆるニッチ分野)での高い技術力を背景に国際市場の一定割合を占有する等、極めて高い競争力を有する中小企業(いわゆるオンリーワン企業)や大企業への企画提案型企業に加え、自らの知識、ノウハウ等を的確に活用しつつ新たな事業を開始する中小企業など、我が国の経済構造に変化を促す活力ある中小企業、新規企業が出現するようになっており、このような中小企業が将来の我が国経済活性化の新たな推進役になっていくものと期待される。また、パソコン等の情報通信機器や情報通信ネットワークを活用したSOHO(small office home office)などの新たな事業形態も広がりつつある。
 このため、平均値のみを比較し、大企業に比して弱い存在として中小企業を一律にとらえることは適切ではなくなってきている。

 以上のように、現行の中小企業基本法が想定した、中小企業の企業数の過多性、企業規模の過小性という画一的な中小企業像を前提とした大企業と中小企業との間の「格差是正」という政策理念とこれに基づく政策体系は、もはや現実に適合しなくなっている。こうした中、「『中小企業イコール弱者』として講ずる一律・硬直的な保護策は、効率性を阻害し、能力ある中小企業、意欲ある創業期の中小企業の成長機会を奪い、中小企業全体の活力を喪失させる」との指摘もなされている(平成9年12月「行政改革委員会最終意見」)。
 また、平成10年6月に成立した中央省庁等改革基本法では、新たに設置される経済産業省の編成方針として、中小企業政策については、「中小企業の保護又はその団体の支援を行う行政を縮小し、地域の役割を強化するとともに、新規産業の創出のための環境の整備への重点化を図ること」とされている。
 以上のような中小企業及び中小企業政策を取り巻く大きな環境変化等を踏まえ、政策理念も含め政策の再構築を図ることが喫緊の課題となっている。

第2節 中小企業に期待される役割と政策の基本理念

1.21世紀の中小企業像

 新たな政策理念に基づく中小企業政策の再構築に当たっては、21世紀の我が国経済において中小企業の担うべき役割、新たな中小企業像を適切に位置づけることがまず必要であると考えられる。
 我が国経済が、現在の閉塞状況を打破し、経済構造改革を推進し新たな産業を創出して行くに当たっては、外的環境の変化に対し、自らリスクに挑戦し柔軟かつスピーディに対応できる創造性に富んだ経済主体の存在が、何よりも重要となってきている。
 このような中で、その規模の小ささ故に大企業に比して「小回りが利く」とされる中小企業が本来有する機動性、柔軟性はますます重要となっているとともに、個人の個性や創造性がより発揮しやすい組織形態としての特性など、経済環境の変化はかかる中小企業の「強み」を発揮しやすい状況となりつつある。従って中小企業を「弱者」として画一的なマイナスのイメージで捉え、かかる中小企業像を前提に底上げ的な施策を一律に講ずるという政策アプローチは、もはや不適切であり、中小企業がその持てる「強み」を発揮するのを妨げかねない。このため、21世紀における中小企業は、機動性、柔軟性、創造性を発揮し、我が国経済の「ダイナミズム」の源泉として、また、自己実現を可能とする魅力ある就業機会創出の担い手として、以下の積極的な役割が期待される存在と位置づけ、政策の再構築を図るべきである。

(1)市場競争の苗床

 多様で独立した中小企業が、市場の圧倒的多数を占めるプレイヤーとして活発に事業活動を行うとともに、新たな市場を創造していくことにより、市場競争が活性化し、経済の新陳代謝が促進される。

(2)イノベーションの担い手

 中小企業は、リスクに挑戦して自ら事業を起こしたり、新事業を展開していこうとする企業家精神発揮の場である。また、新たなイノベーションは、その専門性やものづくり技術等を基に小さな工夫や改善に取り組む中小企業が数多く裾野広く存在することによって可能となり、またこのような中から革新的な技術の製品化や新たな業態等を提供する「ブレークスルー型」の企業が創出される。
 このような、中小企業のイノベーションが、多様な財・サービスの提供を可能とし、柔軟で機動的な分業関係を形成する。

 @多様な財・サービスの提供

 消費者の嗜好が多様化し、ニーズも高度化する中で、自己の得意な分野に特化した中小企業が、多様な消費者ニーズやニッチ市場に対応して、迅速且つ機動的に多様な財・サービスを提供し、新たな業態を生み出していく。

 A新たな分業関係の形成

 我が国経済において、急速な需要動向の変化に迅速に対応しうる柔軟で機動性のある新たな分業関係の形成が必要とされている中で、核となる経営資源(コアコンピタンス)を有する中小企業が、大企業の「イコールパートナー」として、ネットワーク型の分業システムを構築していく。

(3)魅力ある就業機会創出の担い手

 中小企業は、創造性のある事業活動において、自己の能力や判断をよりよく生かし、企業家精神を発揮し、自己実現を図りうる魅力ある就業・雇用機会を提供する。また、新たな雇用機会の多くは、中小企業の創業や成長によってもたらされる。

(4)地域経済社会発展の担い手

 中小企業は、地域経済に密着するとともに、地域の産業集積、商業集積の中核をなす存在であり、このような集積の主体とする中小企業の活躍が、地域経済の活性化の牽引力となるとともに、様々な場面で地域社会に貢献する。

2.中小企業政策の基本理念と政策の目標

(1)新たな中小企業政策の理念

 中小企業がこのような役割を果たしていくためには、中小企業が数多く誕生し、成長し、変革を遂げ市場を活性化していくとともに、個々の中小企業には、「独立」した経済主体として柔軟性と機動性の発揮が期待される。これに加え、今日においては、他の企業とは異なる独自の強みを持つ「専門性」がますます必要とされるようになっている。
 このため、21世紀に向けた中小企業政策の新たな理念は、中小企業が独立・自立した経済主体として、専門的知見を生かした多様な事業活動に積極的に取り組むことにより、その成長・発展を図ること、すなわち「多様で活力ある独立した中小企業の育成・発展」を図ることに求められるべきである。また、その中心となる政策課題は、市場メカニズムの尊重と活用を基礎とし、市場において中小企業が活躍する機会を確保し、その障害の除去を図るとともに、中小企業の経営の革新や創業など新たな創造的価値の拡大に向けた自主的な努力を助長し、多様で独立した中小企業が、のびのびと創造性を発揮しうるような事業活動に係る諸条件を整備していくことにある。

(2)政策の目標

 新たな中小企業政策の理念である「多様で活力ある独立した中小企業の育成・発展」に従い、以下の政策を今後の中小企業政策の目標とすることが適当である。また、政策目標の実現を図るに際しては、民間に委ねるべきはこれを委ね、また、民間の能力を政策の実施に積極的に活用して行くべきである。また、地方公共団体は、地域活力の源泉たる中小企業の振興等を地域の特性に応じて図っていくべき、国と対等の行政主体との認識の下に、適切な役割分担を図って行くべきである。

 @競争条件の整備

 中小企業や新規企業は、創業後相当期間を経過した大企業とは異なり、企業規模が小さいこと、収益性や成長性において企業間での多様性が極めて大きいこと等から、資金や人材の調達において様々な困難に直面する可能性が高い。すなわち、金融・資本市場においては、中小企業の必要とする資金のロットは相対的に小さく、他方金融機関や投資家が中小企業・新規企業の収益性・成長性を事前に評価することが相対的に困難なため、結果として十分な資金調達ができない場合が多い。労働市場についても、多くの中小企業・新規企業にとって、知名度の低さなどにより優秀な人材の採用は大企業に比べて困難である。また規模の小さい中小企業が経営ノウハウ、技術、情報等のソフトな経営資源の全てを企業内に保有することは困難であるが、これら経営資源については、企業規模に比して大きな調達コストをかけざるを得ない場合が多い。
 さらに、市場機能が十分働くためには、公正な競争条件が確保されていることが前提となるが、現実の市場では不当な取引制限や不公正な取引方法が散見され、取引上で劣位にある中小企業者の利益が不当に侵害されたり、被害が十分に救済されないケースが生じ得る。
 このため、かかる市場機能の不十分な面を補完することにより、市場における競争条件を整備していくことが必要である。

 A中小企業の経営の革新や創業の促進

 新商品の開発や新たなサービスの提供、新たな生産方式や経営管理方法の導入等新たな事業を開拓し経営の革新に取り組む既存の中小企業、独創的な新規技術やノウハウ等を活用し事業活動を行う中小企業、新規創業企業等については、上記のような市場メカニズムの下では必ずしも十分に解決できない問題に、より強く直面する。しかし、このような企業の活躍こそは、新たな事業を創出し、我が国経済の構造を変革し、活性化させていく原動力となっていく。
 経済が成熟した欧米諸国の中小企業政策においても、80年代にはいると新たに誕生する企業群に自由な成長と発展の機会を保障すべきとする「誕生権経済」の概念が提唱され、また昨年4月の経済協力開発機構(OECD)の閣僚理事会でも、「中小企業の創造と成長のための条件を改善することが経済成長と雇用確保に重要である」旨が確認されているなど、創業やベンチャー企業の育成、中小企業のイノベーション促進とこれらによる雇用の創造へと政策の重点が変化している。
 このため、中小企業政策としては、このような意欲ある中小企業者の成長、経営の革新へ向けての取り組みや創業への自助努力を積極的に支援していく必要がある。

 Bセイフティネットの整備

 市場原理の尊重は、必然的に市場で勝者と敗者を生み出し、経済的社会的環境変化に対応できない企業は、淘汰される。また、市場のグローバル化が進み、国際的な競争が激化する中でかかる環境の激変はより生じやすくなっている。
 一方で、中小企業は、急激な環境変化に対して脆弱な存在であり、また、実際の市場では労働移動の不完全性等のため、多数の倒産等が生じた場合、労働力の最適な配分は、短期的には実現しがたいと考えられる。
 このため、かかる環境の激変による影響を緩和し、事業者の変化への円滑な対応を促すとともに、市場での敗者に対しては再挑戦の機会を提供する仕組み(セイフティネット)を整備していく必要がある。
 また、かかるセイフティネットの整備が、意欲的な市場参入を円滑化する等、市場機能が適切に発揮される前提となる。

3.小規模企業政策についての考え方

 中小企業について、様々な面でその役割を積極的に評価すべきであること、多様で活力ある独立した中小企業の育成発展を図ることを新たな政策理念とすべきことは、小規模企業にも基本的に妥当する。小規模企業は、企業数において中小企業の大部分を構成するとともに、地域経済や雇用を支える上で重要な役割を果たしている。また、小規模企業は個人の創造性発揮に適した企業形態であり、創業しようとする者に身近な起業の機会を提供するとともに、その積極的な事業活動を通じ、我が国経済全体の活性化に大きな役割が期待される存在である。例えば、いわゆるSOHO(Small Office Home Office)は、情報通信技術の発展・普及を背景として新たに生じてきた業態であるが、事業主の持つ高度な技術力や創造性に基づき、小規模でも高い市場競争力を有するものもある。このため、小規模企業に対する政策理念については、これまでの二重構造の底辺を引き上げることから、小規模企業が幅広い創業活動や積極的な各種の事業展開を進めることが可能となるよう、その自助努力の促進、各種の競争条件の整備及びセイフティネットの充実等を図ることにより創業や成長の苗床として機能するよう支援することへ転換すべきである。
 他方、小規模企業はまさにその小規模性故に、経営基盤は相対的に脆弱であり、資金や技術、情報等経営資源へのアクセスの面で中小企業一般と比してもより大きな困難性を有するとともに、その経営形態は、事業のリスクを事業主と家族が実質的に直接負担する実態にある等の特性を有する。このため、競争条件の整備や、経営の革新に向けた自助努力の支援を通じ、小規模企業の多様で活力ある発展を図るためには、かかる小規模企業の経営基盤や経営形態の実態に即して、金融、税制その他の事項について適切な考慮を払う必要がある。また、政策に取り組む上では、国と地方自治体の相互の連携が重要であるが、小規模企業の地域に密着した性格と、国の行政全般において地方分権を推進する必要があることを踏まえ、個別事業について、それぞれの性格に応じて地方自治体の自主性に委ねる部分を拡大する方法で検討することが適当である。
 具体的には、既存の小規模企業については、日常的な各種の課題に適応していけるようにきめ細かい対応を引き続き行うとともに、このような企業者の意識改革を促し、生産方式の改善や販路開拓など小規模企業の実態に応じた経営革新を促進することが大きな課題である。このため、国の政策資源は、このような小規模企業の経営の革新の支援に重点化していくことが適当である。また、市場から退出する事業者に対しては、その後の生活の安定や事業の再建を容易にするセイフティネットの整備を図ることが必要である。
 また、創業する企業の大部分が小規模企業であり、既存企業から「のれんわけ」により創業がなされる場合だけでなく、個人が独立して小規模企業を起業する形の創業も多く、創業に際しての障害が特に高いと考えられることから、開業しようとする個人に対する創業支援に係る施策を充実させるべきである。


第2部 具体的政策の方向

 前章で整理した新たな中小企業政策の理念を踏まえ、競争条件の整備、自助努力支援、セイフティネットの3つの政策目標にそって今後の政策のあり方を整理すると概ね以下のようになる。なお、以下の分類は一応の考え方の整理であって、それぞれの施策は相互に関連しており、特定の政策目的の実現に向けては、各施策が有機的に組み合わされ展開されるべきものである。

第1節 経営の革新及び創業に向けての自助努力支援

(1)経営の革新の促進

 @基本的考え方

 我が国経済を発展させる源泉は、企業の活発な事業活動であり、不断の経営の革新である。中小企業を取り巻く経済環境がめざましく変化する中で、中小企業においても、激変する経営環境のなかで、経営資源を最大限活用し、変化に対応して自らの経営課題に迅速・果敢に取り組み、他の追随を許さない製品・サービスを提供できなければ市場において生き残れない。また、このような中小企業こそが新たな価値を生み出し我が国経済の牽引力となる。21世紀に期待される中小企業像は、「自立型専門中小企業」といえよう。このためには、中小企業には新商品や新サービスの開発や提供、新たな生産方式や商品の販売方式、新たな経営管理方式の開発や導入等新たな事業活動への取り組み(経営革新)が求められる。
 これまでの中小企業振興政策においては、スケールメリットの存在を前提に、業種ごとの組合等の組織を通じ設備の近代化を中心とした政策対応を図ってきたところであるが、このような環境変化のなかでその有効性は低減している。このため、今後の振興政策においては、中小企業が行う経営革新という「新たな取り組み」に対し、以下の観点を踏まえ積極的に支援することが必要である。

 A施策のあり方

T.多様な経営課題に対する支援
 中小企業の経営革新支援に際しては、従来の設備導入中心の支援のみならず、技術や経営ノウハウ等ソフト面での情報の提供、研究開発や先進的な技術の導入、近年めざましい発展を遂げている情報技術の活用、販路開拓、人材育成等多様な経営課題を支援していくことが重要である。
 また、支援に際しては支援要件を過度に厳格なものとすることは避け、専門性を基に小さな「革新」に取り組む企業をも裾野広く支援しうるよう中小企業の多様な実態に即した支援要件とし、中小企業者にとって分かりやすく使いやすい支援制度とすべきである。

U.事業目的や成長に応じた支援組織形態の弾力化
 経営革新は本来的には企業の自己責任と自助努力に基づき行われるものであることにかんがみ、支援対象については、これまでの業種別組合を中心とした制度から、個々の事業者を支援対象の中核と位置づけるべきである。また、中小企業者が事業目的に応じて組合や任意グループによる連携などの組織形態を柔軟に選択することを可能にするとともに、組合や企業の成長に柔軟に対応できるよう組織形態の変更についても適切に対応していくべきである。

V.高度化融資制度の見直し
 振興施策の主要なツールの1つである高度化融資制度については、単純なスケールメリット追求型の事業の意義が相対的に低下していることを踏まえ、共同出資会社で行いうる事業の拡充、緩やかな連携組織の支援対象への追加など事業の拡充を行い、中小企業のニーズの変化への対応を図るとともに、中小企業の特性を生かした新たな商品開発、製販連携、新事業分野へ発展しようとする企業の支援など、自らの意欲により積極的に新事業の開拓を促進する中小企業への支援に重点化することが必要である。

(2)独創的技術等を利用した事業活動の促進

 @基本的考え方

 多様な中小企業の中には、独創的な技術や問題解決型の技術による新たな製品の開発や、消費者のニーズをとらえた新たな業態の開発等を通じ、新たな事業分野を創造する急成長指向企業(いわゆるベンチャー企業)が登場しつつある。これら企業の特徴としては、経営者が企業家精神に富み、果敢に自らリスクをとりながら知識集約的な事業を展開することであり、このような企業の活躍が、我が国経済を再活性化し、経済構造を変革していくものと期待される。
 しかしながら、これら企業は、新たな事業分野を創造していくものであるが故にその経営リスクは大きく、資金調達や技術の事業化、人材の確保をはじめ、創業し事業が軌道に乗るまでには多くの障害を克服しなければならないケースが多い。したがって、これらベンチャー企業が多数創出するような環境を整備し、その自助努力を支援することは、今後の中小企業政策の重要な課題である。

 A施策のあり方

T.リスクマネーの供給
 ベンチャー企業は、ハイリスク・ハイリターンという事業の性格を有すること等から、資金調達が極めて困難となっているケースもある。このため、ベンチャー企業の資金調達は、間接金融だけでは限界があり、将来性のあるベンチャー企業の創出を推進していくためには、直接金融を通じてリスクマネーがベンチャー企業に供給されるような以下の環境整備を図っていくことが不可欠である。

 ○資本市場の整備
 店頭市場は、ベンチャー企業の資金調達の場として極めて重要な市場である。こうした観点から、株式公開前規制については、平成11年7月、抜本的な見直しが図られたところであり、成長力あるベンチャー企業が迅速に株式公開を果たし資金調達を行うことが期待される。また、証券会社が自己の勘定に基づき、常時売り・買い気配を提示し、投資家等との相手方と相対で交渉し、売買を成立させるマーケットメイカー制度の電子取引化の早期実現や、公開企業に対する情報開示の一層の徹底を図ることにより、引き続き店頭市場の改革・活性化を推進し、公平性・透明性の高い魅力ある市場とすることが必要である。
 また、成長力ある株式未公開のベンチャー企業が市場から直接資金調達を行えるよう、未公開株式の気配値(時価)の公表頻度を向上させること、未公開株式を保管・振替制度(株券を移動させることなく、帳簿上の振替だけで決済する制度)の対象とすること等により未公開株式に係る市場の整備を図るべきである。

 ○資金供給源の多様化
 ベンチャー企業等への年金資金を含めた多様な資金供給を可能とするうえで中小企業等投資事業有限責任組合法は重要な制度である。今後、年金資金等の投資のための判断の参考となる情報として、投資事業組合の運用パフォーマンスを評価する基準となるベンチマークを集計・公表し、組合投資についての透明性を高めていく必要がある。また、アーリーステージ(成長初期段階)にある企業への投資について、中小企業総合事業団による投資事業有限責任組合への出資事業の着実な運用とその充実を図るべきである。
 また、ベンチャー企業、特にアーリーステージにある企業の資金調達にとっては、個人投資家による投資が重要であり、個人投資家によるベンチャー投資が活発化するよう、「エンジェル税制」について検討していくとともに、併せて企業側のディスクロージャーを徹底させる方策等について検討を進める必要がある。

U.ベンチャー企業支援インフラの整備
 成長志向の高いベンチャー企業にとっては、自社の事業内容や技術の可能性等を適切に評価し、資金提供のみならず、経営アドバイスや人材の紹介等の手作りの支援を行う、ベンチャーキャピタリスト等の高度な「目利き」と呼ぶべき支援者が不可欠である。
 このため、ベンチャーキャピタリスト等ベンチャー企業を支援する専門的なスキルを持った人材層を厚くし、ベンチャー企業が必要に応じこのような人材を活用できるような人材ネットワークの整備等を早急に図る必要がある。

V.技術開発とその事業化の促進
 中小企業技術革新制度(SBIR)は、国が事業化指向の研究開発補助金や委託費を指定した上で、毎年度、中小企業向けの支出目標を設定し、技術開発力のある中小企業に対して重点的に研究開発費を配分するとともに、フィージビリティ・スタディ段階から、技術開発さらには開発後の事業化まで一貫して支援するものであり、中小ベンチャー企業の技術開発を支援する重要な制度である。
 また、先般成立した産業活力再生特別措置法においては、国の委託によって開発される技術の特許権等を受託民間企業が保有できる特例が講じられたところであり、今後中小企業の技術開発とその事業化において、両制度の積極的活用が期待される。
 今後、中長期的視点に立って、SBIR制度についてその参加省庁等の拡大、対象補助金等の増額を進めていくとともに、国等の契約における受注機会の増大への配慮など事業化への支援を効果的に図っていく必要がある。

(3) 創業の促進

 @基本的考え方

 これまでの中小企業基本法における政策体系では、中小企業は「過小過多」であるという認識が背景としてあったため、創業を支援するという政策は基本的には存在せず、平成7年に制定された中小創造法において初めて創業支援が明確に中小企業政策の課題として提示された。
 近年、我が国経済では、開業率と廃業率の逆転が起こり、中小企業の数は減少傾向をたどり、経済の新陳代謝の停滞と活力の低下が懸念されている。こうした傾向は、特に製造業と小売業において著しいが、他方でサービス分野においては、消費者ニーズの多様化や情報化の進展等を背景に、新たなサービスの出現や、SOHO等新たな形態の事業展開が増大している。
 このため、創業支援を中小企業政策に積極的に位置づけ、ビジネス感覚、新たな専門能力を有する個人が円滑に創業できるような環境を整備し、政策資源をかかる創業の支援に重点的に投入していくことが重要である。このような観点から、以下の政策を展開していくことが必要である。

 A施策のあり方

 創業支援を国や自治体をはじめ中小企業関係機関にとっての重要政策課題として、徹底するとともに、政策資源の配分を創業支援へシフトし、創業のための事業環境の整備を図るべきである。

T.創業資金の円滑な供給
 創業予定者や、創業間もない事業者(「創業企業」という)には、物的担保の不足や、信用力に乏しいなどの特性があり、資金調達が極めて困難である。このような創業企業の特性を踏まえ、創業企業のニーズにより一層合致した資金供給が行われるよう、政策金融制度の充実を含め、資金供給の円滑化のための環境整備を進めるべきである。

U.創業インフラの整備
 創業企業にとっては、中小企業施策自体が知られていないため、中小企業関係機関のネットワークを整備・活用することにより、施策の周知ルートをまず確立し、創業に有益な情報の提供や助言などが円滑に利用可能となるような体制を整備するとともに、起業家を対象としたセミナーや研修事業の充実を図るべきである。

V.起業家精神の涵養と環境整備
 起業家精神を涵養し、自立や起業の重要性に対する社会的コンセンサスを醸成していくためにも、小中学校において中小企業の活動に触れる機会を増やしたり、大学等の教育機関においても、学生に対する起業家育成コースや社会人のための再教育のコースの充実・強化を図るべきである。

(4) 商業・サービス業の経営革新

 @基本的考え方

 中小企業政策は、競争条件の整備など基本的には業種横断的な政策であり、その自助努力の支援も、経営の革新の支援など業種ではなく企業の活動に着目して行われるものである。中小商業・サービス業についても、かかる観点より、経営革新や創業等の自助努力に対する支援が基本となるが、他方、商業やサービス業においては、例えば、製造業の研究・技術開発とは異なり、商品構成やサービス内容、あるいは商品やサービスの提供方法が重要となる等、業種としての特性が存在する。また、中小小売業については、主として商店街等の商業集積内に存在する事業形態をとることから、立地産業、集積内産業として他律的事業環境に規定される面が大きいとともに、商業集積は、地域における都市機能の活性化等まちづくりの上で、重要な経済的社会的効果をもたらすものであり、まちづくりに関する政策と密接に関連している。その際、中小サービス業も中小小売業と共に商業集積の不可欠な要素となっている点に留意する必要がある。更に、我が国経済の活性化の観点から、創業の促進がかつてなく求められる中で、新規創業の大宗は商業・サービス業において行われている状況にある。
 このため、中小企業政策の具体的展開に際しては、中小商業・サービス業の業種としての特性等も考慮した上で、当該業種に属する中小企業の経営の革新や創業が促進されるよう、適切な政策対応を図ることが必要である。

 A中小商業施策のあり方

 中小小売業については、近年の中小小売業を取り巻く大きな環境変化を踏まえ、中小商業者にとっての主要な事業環境たる商店街等の商業集積を活性化するためには、熱意に乏しい構成員や空き店舗に代わって、やる気と創意にあふれる構成員を増やしていくことが重要であり、危機意識を持って、組織力強化の取り組みを行う集積について、特別な組織形態の選択を可能とする仕組みなど、商業集積の組織力の再構築と新陳代謝や商店街投資の促進を図るための方策について検討を進める必要がある。また、先般、いわゆるまちづくり三法が制定され、今後ともその視点に立った政策対応が期待されているところであり、中心市街地の活性化等のまちづくりをはじめとする地域の主体的かつ積極的取り組みに対しては、有効かつ適切な支援を重点化していくことが必要である。更に、新たな販売手法の採用や新サービスの付加といった新業態の開発や情報化への取り組みなど、個々の中小小売商業者の経営の革新に向けた自助努力に対し、支援対象組織の拡大も含め一層有効な支援方策の検討を進める必要がある。
 中小卸売業については、流通経路の短縮化、吸収合併・廃業などの卸売業再編成の新たな動向が急速に進む中で、リテールサポートなど製・配・販の有機的連携強化等により卸売業の基本的機能の革新に取り組む事業者、流通の効率化・合理化に取り組む事業者を中心に、その自助努力を適切に支援していくべきである。

第2節 競争条件の整備

(1) 資金供給の円滑化と自己資本の充実

 @基本的考え方

 「多様で活力ある独立した中小企業者」が成長・発展を遂げるためには、経営資源への円滑なアクセスが確保されることが前提条件となるが、事業資金の確保は引き続き中小企業者の最大の経営課題であり、中小企業政策においても資金調達の円滑化はその中核となるものである。
 近年の金融自由化の進展のなかで企業の資金調達手段は一般に多様化しているが、中小企業の資金調達の主流は依然として金融機関の融資に代表される間接金融となっている。しかしながら、中小企業は物的担保が不足している上、事業基盤も脆弱であるため、民間金融機関にとっては貸出リスクは大きく、また、与信審査やモニタリングに要する単位当たりコストは大企業よりも相対的に大きい等の理由から、競争条件の整備を図るため相応な政策的配慮が必要であり、公的金融により政府が政策的に関与することも必要である。
 他方、中小企業を取り巻く資金調達環境については、経済のソフト化等のなかで、中小企業の資金ニーズが、設備資金のみならず、販路の開拓や研究開発に係る資金の需要が増大する等変化するとともに、近年の金融ビッグバンの進展は、中小企業の資金調達にとって量的側面とコスト面の両面で困難性を高めるとともに、金融機関の破綻等に起因するシステミック・リスクを増大させている。
 このため、中小企業に対する政策金融のあり方については、「民業補完」機能を基本とするとの考え方をより一層徹底しつつ、中小企業金融を取り巻く環境変化に対応し、中小企業が事業資金に円滑にアクセスできる環境整備とセイフティネットとしての役割を充実するとともに、新規創業や新規事業分野への展開など積極的な事業活動を行おうとする中小企業の自助努力を支援する役割を適切に果たしうるよう政策金融の制度改革を進めていく必要がある。
 また、中小企業が多様で独立した存在として、持ち前の機動性・迅速性を活かすためには、自己資本の充実を進めるとともに、過度の借入依存による制約から脱却し、社債や株式等の直接金融などによる資金調達の多様化を図る必要がある。
 さらに、金融ビッグバンの進展の中で、既存金融機関以外の新たな中小企業向け資金供給チャネルの整備など、中小企業にとっての資金調達先の多様化が図られ得るような環境整備を進めていくことが重要である。

 A施策のあり方

T.中小企業の資金ニーズに適合した間接金融機能の充実
 中小企業の資金需要が多様化し、設備資金のみならず運転資金の資金需要が増大するなかで、政策融資の審査手法については、債権保全の必要性を念頭に置きつつも、これまでの担保徴求を前提とした融資制度を見直し、事業が生み出す将来のキャッシュフローに着目した融資に重点を移していく必要がある。特に、創業期の企業やベンチャー企業にとっては、事業から生み出される将来のキャッシュフローが借入の返済原資の大宗となるため、当該企業の有する技術、市場性、経営者の能力など非財務的な要素に係る審査能力の強化・体制の整備が不可欠である。また、事業リスクに応じた金利の設定、据置期間・償還期間の多様化など個々の中小企業のニーズにみあった多様な金融商品が選択できるよう柔軟な制度設計を行うとともに、高い成長性が見込まれるベンチャー企業に対し、担保・保証の徴求緩和や成功報酬メカニズムを導入した新型の政策融資制度の創設を検討すべきである。
 さらに、信用補完制度については、政府、地方自治体、金融機関等のリスク分担の在り方や信用保証協会間の統一的制度運用と競争・差別化促進とのバランスの在り方といった制度面における検討、新規創業や新事業の開拓を行う中小企業者を支援するための柔軟な制度設計や審査機能の向上等の実務面における検討を通じ、中小企業の健全な発展のための資金ニーズに、より一層適合した制度とする必要がある。

U.システミックリスクに対するセイフティネット機能
 今後、金融機関の競争激化により、体力の乏しい金融機関を中心にしたシステミックリスクの高まりが予想される。現状では資金調達の大部分を間接金融に依存せざるを得ない中小企業にとっては、不安定な資金調達環境が続くものと考えられ、このような急激な環境変化に際して、中小企業に対する与信面のカバーなど量的な補完を機動的に行うことが政策金融の役割として求められる。

V.直接金融へのアクセス円滑化のための環境整備
 中小企業者の資金調達手段を多様化していく観点から、店頭市場等資本市場の整備や投資事業有限責任組合の活用等による資金供給源の多様化を図るとともに、投資育成株式会社や地域のベンチャー財団等既存の機関についても、その機能強化と体制の整備が必要である。
 また、中小企業向け貸出債権等の流動化等多様なリスク・リターンを組み合わせる手法の活用、公的信用保証の付与等による中小企業の社債発行の円滑化等について検討を行い、中小企業者の直接金融へのアクセスのための環境整備を進めていくべきである。
 さらに、中小企業の直接金融市場での資金調達を可能とする前提として、中小企業の側においても、事業の収益性、将来性を市場に対して適切に説明する取組み、ディスクロージャーの強化・拡充や監査の徹底による経営の透明性の向上等を図っていく必要がある。
 特に、我が国の金融機関等においては、中小企業向け貸出債権の貸し倒れ率等に関するいわゆるヒストリカルデータの蓄積がほとんど行われておらず、現時点では中小企業の財務評価やリスク情報提供に関するインフラ整備が甚だ不十分である。これを踏まえ、企業規模、業種、経営指標等によって分類された中小企業群ごとにリスク評価を行い得るよう、中小企業の財務情報等に関するデータベースの構築を図ることが必要である。

W.中小企業税制
 中小企業に対する税制措置は、中小企業の租税負担の適正化により事業環境の整備を図るうえで、また、中小企業の研究開発等新たな事業の開拓に向けてのインセンティブを付与するうえで重要な役割を有するものであり、以下の点について適切な措置が図られることが必要である。

 ○中小企業の事業環境整備
 中小法人に対する軽減税率については、中小企業の税負担の軽減を通じ、中小企業のキャッシュフローの確保に資するとともに、自己資本の充実に資する面があり、大企業に比べて資金力・信用力が弱い中小企業の経営基盤の安定のために重要なものである。諸外国でも同様の措置が講じられていることも踏まえ、引き続き適切な軽減を図っていくべきである。
 小規模事業者に対する税制措置については、小規模事業者の新規産業分野での活躍が期待されるとともに、雇用を支える重要な役割を担っていること等を踏まえ、青色申告特別控除及び事業主控除額の引き上げが図られているところであるが、今後とも、同族会社の留保金課税の取扱いも含め、課税の公平性の確保等の観点から検討していくべきである。
 中小企業の事業承継問題については、特定事業用の小規模宅地に関する特例措置の対象面積の拡大により、大幅な改善が図られたところであるが、我が国の雇用を支える中小企業の事業承継の円滑化の観点等から、相続税率の水準、非上場の株式の評価等の問題について検討していくべきである。

 ○租税特別措置の重点化
 中小企業への租税特別措置は、企業の自主的な努力が前提で呼び水的に効果を発揮するものであり、特定の政策目的に沿い企業にインセンティブを付与する政策ツールとして極めて有効である。
 このため、中小企業にかかる租税特別措置については、引き続き不断の見直しを行いつつ、中小企業の経営の革新の促進や新技術等を利用した事業の促進など真に必要な特別措置に重点化していくべきである。

(2)経営資源の充実強化

 @基本的考え方

 中小企業が独創性、機動性等を発揮して新たな事業活動を展開していくための基礎条件としては、従来のハード面の経営資源の重要性は相対的に減少し、経営ノウハウ、技術、情報等のソフトな経営資源の重要性が著しく増大しており、ソフトな経営資源の総合的な充実強化が必要不可欠となっている。しかしながら、中小企業の場合、このような経営資源を全て内部に保有することは、その企業規模からして困難であり、また、非効率となる場合もあり、必要な経営ノウハウ、技術等を有する外部の者(外部経営資源)の活用が重要となっている。このため、中小企業内部における経営戦略の核となるソフトな経営資源の充実強化を図るとともに、中小企業が容易に外部経営資源を活用できるような環境整備を進めることが必要である。
 これまで、中小企業政策では、かかる施策を「指導事業」と位置づけ、行政機関により「上から教え導く」との考え方を基礎に、自治体の職員が直接「指導」を行うとともに、自治体の関係機関や商工会・商工会議所、中央会等の指導団体を通じ実施されてきたところである。しかしながら、中小企業者の抱える経営課題が多様化・高度化し、また国際化への対応も必要となる中で、もはや行政自ら「指導」を行い、効果を上げることは困難になっている。むしろ行政は、かかる役割を縮小し、市場機能を発揮させる中で、上記指導団体を含めた民間機能を活用した施策へとシフトすべきである。
 このため行政は、外部の民間専門家が発展・活躍できる環境整備を図るとともに、中小企業者が、これら外部経営資源に円滑にアクセスできるような「場」や、コーディネーション機能の提供等、効率的・効果的な支援事業の枠組みの整備に重点化していくべきである。

 A施策のあり方

T.効率的支援事業実施体制の再構築
 中小企業におけるソフトな経営資源の充実強化に対する支援を進めていくためには、中小企業者の利便性向上を第一とし、国と地方公共団体との適切な役割分担のもとに、現行の支援実施体制の再構築が必要である。
 国は基本政策のフレームワークの構築、全国的な視点に立って行う必要のある施策のメニューの提示及び先進的なモデル事業・広域的な事業等を推進するにとどめ、中小企業総合事業団は、真に全国的な視点に立って行うべき事業や他の支援機関では行うことが困難な事業の実施機関として重点化すべきである。
 都道府県は、国の施策メニューを適宜選択し、地域特性に応じた独自の施策を行うとともに、真の総合的な相談窓口機能、ワンストップサービス機能が発揮しうるよう中核的支援機関の整備を進め、中核的支援機関と都道府県レベルの他の支援機関との連携及びこれらと商工会・商工会議所等の実施機関とのネットワークの構築など、その実施体制の整備を図るべきである。

U.民間専門家の活用に向けた環境整備
 支援事業の実施に際しては、民間専門家の活用を基本とし、中小企業が抱える経営課題に対し、一定の質のコンサルティングサービスをタイムリーに利用しうるような仕組みを整備することが必要である。
 このためには、現在の国の支援事業にかかる団体別予算を抜本的に見直し、これをテーマ別、機能別に再編成し、一定の水準を有する組織、企業、個人に広く支援事業参加への機会を提供するとともに、これらが提供するサービスに対する施策利用者の評価が適切にフィードバックされるシステムを構築することが必要である。この場合、施策利用者への一定の受益者負担の導入は、中小企業の支援事業に対する評価が厳しくなる結果、利用者による事業実施機関の評価・選別の強化、支援事業の質の向上につながるものと考えられるため、事業への自己負担の導入を適切に推進するべきである。
 また、戦後間もなく都道府県による経営の診断を担当する者の資格として発足した中小企業診断士制度についても、ソフトな経営資源に係る支援事業への民間専門家の活用の観点から、適切な公的関与の在り方も含め、その見直しを図るべきである。

V.技術開発等の円滑化
 中小企業の活力ある発展にとって、専門性、創造性の発揮がますます重要となる中で、イノベーションの源である研究開発力やものづくり技術の向上は極めて重要な課題である。このため、中小企業がこうした技術力の向上に必要なソフトな経営資源に円滑にアクセスしうるよう、都道府県の公設試験研究所(公設試)、大学、国立研究機関、地域の中核的支援機関等の役割・位置づけを明確化するとともに、総合的な連携体制を整備する必要がある。
 このような連携体制の中で、公設試については、地域の中小企業から技術支援の面で高く期待されており、地域の中小企業のニーズに密着した技術支援機関としての役割を果たしていくことが重要である。技術支援に当たっては、多様化・高度化していく中小企業のニーズに対応するために、共同研究や先端設備の開放などにより中小企業が抱える技術課題を中小企業と一緒に解決する過程を通じてその技術開発力を高めていくことが必要である。また、中小企業の事業化支援の観点からは、技術情報のみならず、設計や製品化を含めたアドバイスやコーディネーター機能の役割も重要である。さらに、中小企業においても大学や国研等の高度な研究機関との連携への期待が高まってきている中で、中小企業の求めている製品化のための技術開発ニーズと大学等の研究機関のシーズを結びつけるなど、公設試には連携の触媒としての役割が期待される。
 また、技術が高度化・複雑化し、開発にスピードが求められていく状況においては、公設試間の協力や相互補完を図るため、都道府県を超えた広域連携を推進し、公設試、国研、大学などにより、共同研究や設備の共同利用を図るとともに、様々な技術支援活動によって得られた知識・ノウハウを蓄積し、幅広く中小企業と共有できるネットワーク・システムを構築していくことが必要になっている。
 一方、中小企業が自ら行う技術開発については相対的に大きなリスクが伴うとともに、資金確保が難しいこと、人材、情報等経営資源が限られること等から、効果的かつタイムリーな支援を行っていくことが重要である。この場合、かかる技術開発が経済・社会ニーズに即応し、事業化により多く結びつくものとなるよう、技術開発支援等に際しては、技術の市場性等の評価を適切に推進するとともに、技術開発から事業化まで一貫した支援措置を講ずることが重要である。

W.情報化の推進
 中小企業が情報化を単なる事務処理の合理化・省力化を目的とすることにとどまらず、コンピュータネットワークを利用した電子商取引(EC)等の高度な情報化を取り込むことで情報の有効活用等による経営の革新を進めるためには、情報ネットワーク化の動きに積極的に対応していくことが必要である。
 他方、我が国の中小企業においては、総じて見れば、中小企業の情報化への取り組みは、大企業に比して大幅に遅れている現状にある。その要因としては、要員の不足や資金問題だけでなく、そもそも情報化に対する経営者の認識が不足していることや、コンピュータ活用の前提となる経営体制の整備の遅れが大きい。こうしたことから、情報ネットワークの急速な普及から、多くの中小企業が取り残されていくことが懸念される。このため、中小企業の自助努力を前提とした上で、中小企業の情報化への取り組みを、適切に支援する環境整備を図っていく必要がある。
 具体的には、中小企業が情報化の進展に即応し事業機会の拡大を図れるよう、中小企業者の情報化への取り組みの段階に応じ、経営者の情報化に対する意識改革を図るための研修・セミナーの機会を充実することが重要である。コンピュータの活用についての関心や意欲がありながら上手く使いこなすことができない中小企業には、コンピュータや情報ネットワークを活用して経営の革新に成功した事例を具体的に発掘し、研修やセミナーにより経営者等に対し情報提供することに加え、中小企業の求めに応じ、中小企業診断士や技術士に加え、情報処理技術(IT)の経営レベルにおける実践的活用能力を備えたITコーディネーターや、実践的監査経験を有するシステム監査人など、民間専門家診断・助言や相談の機会を適切かつ確実に提供できるよう、国は支援のための環境を積極的に整備すべきである。
 情報化支援のための人材(経営戦略としての情報化の重要性について中小企業に助言する人材、個別具体的な情報技術に係る助言ニーズに応える人材等)の確保・養成は、中小企業の情報化を進める上で最も重要な問題であり、中小企業のネットワークを活用したビジネス等への対応を支援できる人材を確保・養成するよう努めることが急務である。また、中小企業の経営革新等のための経営戦略の一環としての情報戦略について、企業内で直接経営者に助言できる人材の供給も重要である。このため中小企業大学校をはじめ地域ソフトウェアセンター及び情報関連人材育成事業を行う新事業支援機関等の情報化のための人材養成機能を充実したり、情報処理技術者等の専門家の活用が重要である。
 また、国等においても調達や各種手続の電子化に努めるとともに、インターネット接続料金の定額化など、中小企業の情報化を促すための社会環境づくり等の検討が必要である。
 地域における中小企業の情報化施策の強化のためには、都道府県等の中小企業地域情報センターに加え、商工会、商工会議所、中小企業団体中央会等の地域における拠点との連携や、ソフトな経営資源の充実強化のための中核的支援機関との連携など、中小企業がその情報化への取り組みを促進していくための体制整備を図っていくことが必要である。

(3) 連携の促進

 @基本的考え方

 最近における中小企業の組合制度に対するニーズは、ハード面でのスケールメリットを追求する事業から、異業種の連携による新事業開拓や共同受注・販売、研究開発等ソフト面での共同化を図る事業へと、そのウェイトがシフトしている。
 他方、変化の早い経済に柔軟且つ機動的に対応するために、これまでの強固な企業間の連携ではなく、個々の企業は自分の得意とする分野に特化し、技術や情報等不足する経営資源を他の企業との緩やかな連携によって補完するケースが増大している。また、これらの連携を発展させ、事業化に向けた研究開発や情報化、環境リサイクル、福祉介護、物流効率化等に係る新たな組合の設立や、SOHO事業者、主婦、高齢者が自ら組織化して働く場を創る企業組合、地域振興に直結した事業を行う組合の設立の動きも増大している。これらの新たな動きは、企業性を強く備え、所有と経営が分離した株式会社制度ではなく、構成員が主体性を維持しつつ、共同経済事業や共同経営により経営や事業の効率化を図る協同組合という特質を活かしたものであると考えられる。
 このような環境変化や新しいニーズが生じている中で、特に、法制度が、固定・永続的な組合を前提としており、研究開発成果の事業化など組合や企業の「成長」に応じた新たな事業活動の展開に柔軟に対応しうるものになっていないという問題が生じている。
 国際的にも産業再編の動きが加速し、我が国の産業競争力の強化、経済の供給面での体質強化が喫緊の課題となっている今日、合併、分社化、会社分割制度の導入等企業組織の自由な選択により円滑な事業再編を図るための環境整備が進められており、中小企業分野においても、事業の発展段階に応じた柔軟な組織形態の再編が求められている。

 以上のような状況を踏まえ、中小企業組合制度を、本来中小企業が有する機動性、柔軟性や、創造性などを生かして、自立化を目指す同質・異質な企業が「経営資源の相互補完を図るための組織」と位置づけるとともに、中小企業が事業の発展段階に応じて、組合制度、会社制度のそれぞれの特性を踏まえ、多様な連携組織形態を選択し、柔軟な活動を可能とすべく「成長」の視点を導入すべきである。また、組織化政策の対象を、新たな事業の創出や経営の革新に向けた経営資源の補完を図る企業間の緩やかな連携や、この連携を支援する組織へとより一層拡大していく必要がある。
 
 A施策のあり方

T.成長に応じた柔軟な組織再編の促進
 中小企業者が、その連携を通じて、創業、新事業創出、経営革新等を円滑に進めていくためには、事業の発展段階に応じて、緩やかな連携や組合、共同出資会社等多様な連携組織形態を選択することを可能とすべきである。具体的には、組合を活用した研究開発成果の事業化等に際し、組合を解散して別法人を設立するのではなく、組合に蓄積された資源を活用し、会社への柔軟な組織変更を可能とするべく、会社法制との整合性をふまえつつ組合から会社への組織変更規定を導入すべきである。
 また、中小企業の創業から事業の発展段階に応じた新事業展開、経営の革新が円滑に図られるよう、現行制度の運用についてもその弾力化を図っていく必要がある。

U.企業間の緩やかな連携への支援強化
 環境変化に柔軟かつ機動的に対応する任意グループや企業間ネットワークなど、法人格を持たない企業間の「緩やかな連携」や共同出資会社等の連携形態についても、組織化政策の対象として積極的に位置づけ、その形成と成長発展を適切に支援していくべきである。
 この場合、中小企業総合事業団の高度化融資制度、商工中金の組合金融等現行の組合を前提とした支援制度についても、緩やかな連携も支援可能となるよう、連携事業に係る効果的な審査・債権管理体制の在り方を検討していく必要がある。

V.商工組合の在り方の見直し
 商工組合の行うカルテル事業は、大企業を含めた業界全体の市場機能を一時的に停止させて不利の補正を図るものである。しかし、市場原理尊重の観点からは、経営革新支援法に見られるような中小企業者の経営革新等による自律的成長を促進させる対応がより適切であることから、廃止することが適当である。
 一方、近年重要性を増してきている環境、エネルギー等の社会的に対応が要請される問題への取り組みや、業界全体を取り巻く環境変化に応じた中小企業の経営革新への取り組みについては、個々の中小企業が個別に取り組むことが難しく、また、業種ごとに対応を講ずることが効率的かつ効果的な場合が多い。このため、地域別の同業種組織としての商工組合等のネットワークを活用することにより、個々の中小企業者の負担の軽減と対応の円滑化を図って行くことが必要である。

W.産業集積の機能の活性化
 一定の地域に多数の中小企業等が事業活動を行う産業集積は、企業間の取引の調整費用を低減させる等により、集積内の中小企業の有機的な連携活動を促進し、柔軟で機動的な分業ネットワークの構築や、技術力の集積による共同の技術開発の促進、創業の円滑化等の外部的な経済効果、機能を有する。
 このため、産業集積が有する機能の活性化やものづくり技術の高度化を促進するための適切な措置を講じることにより、中小企業の連携活動の促進を図り、地域の中小企業の自律的、内発的発展の基盤を強化すべきである。

(4)人的資源の充実

 @基本的考え方

 中小企業の核となる経営ノウハウ、技術、市場情報等のソフトな経営資源は、通常、中小企業の経営者、従業員の「人」に体化されるものであり、経営者を含め中小企業内部における人的資源の充実は、中小企業の基本的経営課題である。今後、本格的な少子高齢化社会が到来し、中長期的には労働力の供給制約が高まることが想定されるとともに、我が国経済の活性化に向けた新規産業の創出等が強く期待されるなかで、中小企業にとっても高度な人材の確保、従業員の能力向上は不可欠となる。
 したがって、中小企業の人的資源の充実に向け、長期継続雇用慣行が変化するなかで、労働移動の円滑化を推進するとともに、中小企業が必要とする労働力を確保するための労働条件の改善、外部の人材活用に向けた労働市場の整備、新規事業の展開等に資する経営者・従業員の能力の向上が必要である。

 A施策のあり方

T.労働市場の環境整備
 中小企業の中には、財務や品質管理など基礎的経営基盤の弱さが、その成長を制約しているものも多く、中小企業が必要とする人的経営資源を円滑に調達・活用することが求められる。本年6月、労働者派遣法、職業安定法が改正され、労働者派遣事業の対象業務のネガティブリスト化、民間有料職業紹介事業の取扱職業の範囲のネガティブリスト化が図られたところであるが、これらの的確な運用による労働力の需給調整機能の強化等労働市場の環境整備を促進していくべきである。

U.労働移動に対し中立的な退職金・年金制度の確立
 中小企業が受け入れられる退職金・年金の負担は、その企業の規模・成長性等によって様々であること、労働移動が増大しており経営者・従業員のニーズも多様化していること等の実態を踏まえ、今後の制度見直しのなかで、年金運用利回りの向上、制度間でのポータビリティの確保等の問題を検討していくべきである。また、確定拠出型年金制度についての議論においても、ベンチャー企業や中小企業が優秀な人材を獲得しやすくなるよう中小企業の利用が容易になる方策を検討していく必要がある。

V.労働力確保に向けた雇用管理の改善
 中小企業の労働環境、福利厚生の改善・充実等の雇用管理の改善を進めることが可能となるような施策の推進や、中小企業退職金共済制度の普及促進等により、中小企業の労働力確保の円滑化に対する支援を引き続き実施していく必要がある。

W.人材育成の強化
 中小企業における人材育成を支援する施策については、現状では中小企業大学校等を中心として実施されているところであるが、創業企業等を含め中小企業に必要とされる人的資源の質は高度化し、また多様化している。このため、中小企業に対する基礎的な研修は地方公共団体が担い、中小企業大学校等国レベルの機関は、地方公共団体が実施困難な研修や、経営革新等国の施策としての重要課題に係る中小企業向け研修、中小企業支援担当者向け研修に重点化し、相互の役割分担と協力の下に、裾野の広い効果的な事業展開が可能となるよう実施体制の見直しを図るべきである。また、技術の多様化・高度化に対応した技術・技能研修、支援機関の指導担当者やベンチャーキャピタリスト等の専門家の充実・強化を図るための研修等については、大学、公設試、民間教育研修機関との連携・活用を促進し、その質の向上を図るべきである。

(5) 取引の適正化と国等からの受注機会の確保

 @基本的考え方

 中小企業基本法においては、「対外的事業活動面における不利の補正のための政策」として調整・規制政策や官公需施策が位置づけられ、独禁法の適用除外カルテル等、直接行政が市場に介入する施策も是認されてきたところである。
 しかしながら、中小企業を巡る経済環境は、中小企業の多様性の増大、経済のグローバル化、規模要因が市場競争において支配的にならない事業分野の増大など、基本法制定時とは大きく変化している。したがって、経済的弱者という画一的中小企業観を根底とした不利の補正政策の妥当性については、「市場原理の尊重」、「経済的規制は原則自由・社会的規制は必要最低限」という視点の下に再度検証し、今後の中小企業政策においては、以下を基本に施策の展開を図るべきである。

 ○市場参入機会の確保
 市場原理の尊重のもと、中小企業の公平な市場参入の機会を確保するとともに、中小企業の事業活動を阻害したり、過度の負担となっている規制・制度や調達や民間の商慣行等については、その改善を促す仕組みを整備する。
 むろん、かかる施策は「結果としての平等」を保証するものではないことに厳に留意すべきである。

 ○取引の適正化
 規制緩和自体は、中小企業にとっても新たなビジネスチャンスをもたらすものである。一方で、規制緩和後の市場においては、従来以上に公正な競争秩序を確保することが重要であり、「中小企業者に不当な不利益を与えるなどの不公正な取引に対して厳正・迅速に対処」することの必要性が指摘されているところである。
 今後中小企業に係る取引の一層の適正化のため、政策的対応の強化を図る必要性がある。

 A施策のあり方

T.取引の適正化
 下請代金法については、物品等の製造委託を中心とした下請取引に適用されるが、規制緩和の進展による競争激化を踏まえ、その運用の改善を図るとともに、物品等の製造委託と同様、不当な代金減額や支払遅延等の問題があると指摘されている一定の生産設備の製造委託及び一部サービス業における役務委託に関し、その実態の把握と分析を進めた上で、同法の適用対象とすることの必要性等につき検討すべきである。その際、役務委託については、一部の業界団体において、その適正な取引のあり方についてガイドライン作成等の検討が行われることとされており、このような業界における自主的努力についても、十分に注視していく必要がある。
 また、近年、下請代金の問題以外にも、大規模小売業者による優越的地位の濫用など、中小企業に係る取引について問題となる事例が増大している。このような事例においては、下請代金問題同様、事業者は今後の取引への影響を考慮し、問題提起をためらわざるを得ず、問題の適切な解決が図られていないとの指摘もなされている。このため、かかる取引を巡るトラブルが多い取引分野については、取引の明確化、透明性の向上が図られるとともに、トラブルの実態を把握・監視し、弱い立場にある事業者による問題提起を可能としうるような仕組みの検討が必要である。

U.商工組合によるカルテル制度の廃止(前掲)

V.受注機会の確保
 国等からの中小企業に対する受注機会の確保を図る官公需施策は、競争条件の整備の観点から引き続き肯定しうるものと考えられるが、中小企業への発注を前提とした分割発注には非効率になっているものが見られる等の指摘もなされており、効率的な公共工事の実施の観点から、運用面の改善を図るべきである。また、新事業の開拓の成果を有する中小ベンチャー企業の受注機会の増大が図られるよう配慮されるべきである。
 また、下請企業等に関する取引斡旋については、下請企業の自立化促進に向け、中小企業の企業情報や受発注希望等の情報の発信及び発注企業から中小企業への発注情報の提供等について、各都道府県域を超えた広域化を図るなど、その広域化を推進すべきである。

第3節 経済的環境等の著しい変化への適応の円滑化

(1)基本的考え方

 行政の役割を「市場原理尊重型」へと転換していく場合、市場競争において「勝者」と「敗者」が生ずることは必至であり、市場に存続できない者は淘汰されることになる。また、相対的に経営基盤が脆弱な中小企業においては、為替の急激な変化や貿易ルールの変更、金融等のシステミック・リスク等個々の企業の責に帰することのできないような外的環境の急激な変化等によって、大企業であれば存続可能な状態であっても、多数の中小企業がその存続を危ぶまれる等の事態が生じうる。
 このような事態に対して、事業活動に係るセイフティネットとして、行政が緊急避難的な措置等を講ずることにより、その影響を緩和し事業者の環境変化への対応を促すとともに、市場での敗者に対しては、円滑な廃業と再挑戦の機会を提供する仕組みを整備していくことが必要である。
 セイフティネットについては、事業者のリスクマネジメントを基本としつつ、これを補完する政策手段としては、以下の整備を図ることが適当であろう。

(2)経済的環境等の著しい変化に対する緊急避難的措置

 @措置の類型

T.金融等の支援措置
 一時的な経済環境の変化に対処するため、個別企業に対して一時的に経営を底支えするための政策であり、信用保証、低利融資等の措置がありうる。今般の金融収縮を契機とした「貸し渋り」に対する政府系金融機関による量的補完や金融安定化特別保証制度の適用は、まさに緊急避難的措置としてのセイフティネットとして位置づけうるものといえよう。

U.経営基盤強化
 市場競争環境の激変等によって業況が急激に悪化している業種に対し、当該業種に属する中小企業の将来の経営革新の促進が図られるよう、経営の建て直しのための時限的な経営基盤強化のための措置を講ずることが必要となりうる。この場合、外的要因による業況の悪化は業種全体にわたる事象であることが想定されることから、当該業種に係る商工組合や社団等の団体を通じた措置の実施が適当であろう。

V.緊急避難的経営安定措置
 大企業の事業活動に伴い中小企業の経営環境が大きく変化する場合の問題については、市場原理の尊重を基本としつつ、急激な環境変化に対して脆弱である中小企業にとっての経営環境の激変に係る円滑な対応の促進、大企業にとっての予見可能性と透明性の確保等の観点から、現行の調整政策の位置づけ・あり方を見直していく必要がある。

 A適用の条件

 かかる措置は、事業者を単に保護するのではなく変化への対応や変革を促すものでなければならず、適用に当たっては、一定の条件を課す必要がある。セイフティネットとしての緊急避難的措置発動の条件としては、以下の諸点が考えられる。

 ○経済環境の急激な変化や金融システミックリスクによる信用収縮の発生等の個々の企業の責に帰することのできない外的要因により、中小企業が市場からの退出を余儀なくされる事態が想定されること。

 ○緊急時に限定した時限的措置であること。

 ○緊急避難的経営安定措置については、他に代替する直接的な政策手段が無く、かつ、競争制限的効果、消費者の利益も含め政策手段としての費用対効果も是認しうること。

(3)セイフティネットとしての保険的システムの整備

 連鎖倒産や予期せぬ廃業等不測の事態に対する自衛的手段の一つの方法として保険があるが、中小企業とっては、リスクが大きすぎる、収益性が低い等の理由により、保険システムが民間によって提供されていない場合がある。このような場合において、行政が補完的に保険システムの提供を行う必要がある。
 小規模企業共済制度は、退職金制度のない小規模企業の事業主のための制度であるが、廃業や倒産した場合の生活の安定や、事業に失敗した者の再起を可能とする環境整備の観点からも重要性が増している。また、倒産防止共済は、取引先企業の倒産の影響を受けて中小企業が連鎖倒産する等の事態の発生を防止するための制度であり、近年の倒産件数の増大等も踏まえつつ、セイフティネットとしての機能を適切に発揮し得るよう制度の整備を図っていく必要があろう。
 中小企業の海外事業活動は、投資環境の激変等のリスクが存在し、その影響は大企業に比して大きい。かかるリスクの軽減措置としては、例えば貿易保険制度としての海外投資保険等があるが、一層の制度普及により中小企業による活用促進を図る必要がある。

(4)倒産法制の整備

 我が国の企業倒産については、件数ではそのほとんどを中小企業が占めるが、中小企業が利用可能な倒産制度が実質上整備されていないため、そのほとんどが私的整理で処理されている。このため、中小企業にとって、破産に至るまで手続きの申立ができず、市場からの円滑な退出が困難となっているとともに、再建型手続きがとれず経営資源の活用を図ることができない。また、中小企業の場合、企業の債務を企業の代表者が保証していることが一般的なため、事業者の再挑戦も実質的に困難となっている。また、経営者が、事業に失敗した際に過度の経済的・社会的ペナルティを負うことが、創業や新たな事業に挑戦しようとする者の意欲をくじいているという現実もある。
 このため、中小企業にとって使いやすく再挑戦を容易にするような倒産法制の整備を早急に図るべきである。この場合、倒産申立要件の緩和、債務者の事業継続、担保権実行の制限等を可能とする新たな再建手続きの創設と裁判費用の軽減等による中小企業にとって使いやすい簡素・迅速な新再建型手続きの創設、企業債務に個人保証している経営者等個人の更生手続きの創設による、企業再建手続きと個人の保証債務の一体的処理の導入等事業に失敗した者の再挑戦の容易化が図られるべきである。


第3部 中小企業政策の対象と政策実施体制

第1節 中小企業者の範囲

(1)基本的考え方

 現行中小企業基本法では、中小企業者と大企業との「格差の是正」を政策目標とし、中小企業の範囲を画するに際しては、企業間格差の底辺に位置することを実質的要件とし、事業活動の結果として存在する生産性、賃金等の事後的な格差を主要なメルクマールとした。
 今般、新たな中小企業政策の目標として、格差の存在自体は是認した上で、「多様で活力ある独立した中小企業者」の育成・発展を政策目標として提示したところである。かかる政策理念の下、何をもって政策対象を画するかについては、「多様で活力ある独立した中小企業者」が成長・発展を遂げるためには、「市場の失敗」等を補正し、市場における競争条件のイコール・フッティングが確保されること、具体的には資金・人材等の経営資源へ円滑にアクセスする機会が確保されていることが必要となると考えられることから、資金調達を中心にかかる面での困難性を有する事業者等の有無をメルクマールとすることが適当と考えられる。
 この場合、かかる能力を如何なる指標で具体的に捕捉するかは難しい問題であるが、かかる経営資源へのアクセスの困難性は企業規模にしたがって変化すること、行政の明白性や継続性、規模の捕捉に要するコスト等も踏まえ、これまで同様、基本的には資本金、従業員を基準に、範囲を画していくことが適当である。
 以上の基本的な考えに基づき、現行の定義の妥当性について検証すれば、概ね以下のとおりである。

(2)見直しの方向

 @中小企業者の定義

T.資本金基準
 資本金基準については、前回の定義改訂時以降、25年余りが経過しており、

 ○物価水準は2倍以上となっており、また最低資本金の導入等もあり、平均資本金額、資本装備率等の指標についても概ね3〜5倍と、大きく増大していること。

 ○このような中で、現行の資本金基準を超えた企業規模においても、代表者の個人保証が求められるなどの資金調達上の困難性が顕在化していること。

 ○中小・中堅企業の資金調達の場と位置づけられている店頭市場における登録企業の資本金規模の実態と、現行基本法の製造業等の資本金基準についても、大きな乖離が生じていること。

等にかんがみた場合、各業種につき所要の引き上げを図る必要がある。

U.従業員基準
 従業員基準については、資本金基準のように物価変動等の影響は基本的に想定されず、また、事業所及び企業平均の従業員規模が、大企業を中心に総じて減少傾向にあること等にかんがみれば、各業種それぞれについて従業員基準を拡大する積極的理由は乏しいものと考えられる。
 他方、サービス業については、対事業所サービスを中心とした新業態のサービス業や、労働集約的なサービス業の展開等により、

 ○従来同一の定義を適用する前提となっていたサービス業と小売業との業態の類似性は低下していること。

 ○従業員数は増大傾向にあり、現行の従業員基準を超える事業所のシェア、業種も増大し、法人企業当たりの平均でみれば卸売業を超えていること。

 ○今後、サービス経済化の進展の中で、対個人サービス業のみならず、対事業所サービス業など、多様な業種・業態の展開が想定されること。

等から、小売業と分離し従業員基準の引き上げを図ることが適当である。

 以上を踏まえた場合、中小企業政策の対象とする中小企業者は、おおむね別表に掲げる方向で検討することとし、その範囲は、その施策が中小企業政策の目標を達成するため効率的に実施されるように施策ごとに定めるものとすることが適当である。

 また、個別の施策において中小企業者の範囲を定めるにあたっては、新たな政策理念や親企業を有する企業の実態も踏まえ、資本金基準及び従業員基準に加え、資本又は議決権の一定割合を他の企業に保有されているか否か等、企業の「独立性」につき、施策の目的に応じ、適切に考慮していくことが適当である。

    中小企業者の範囲の見直しの方向
( )内は現行定義。

            従業員      資本金
 工業・鉱業等※    300人     3億円
           (300人)   (1億円)
 (※工業、鉱業、運送業その他の業種、以下に掲げる業種を除く)

 卸売業        100人     1億円
           (100人)   (3千万円)

 小売業         50人     5千万円
            (50人)   (1千万円)

 サービス業      100人     5千万円
            (50人)   (1千万円)

 A 小規模企業者の定義

 小規模企業については、その位置づけや役割、経営基盤の実態等にかんがみ、引き続き中小企業者とは別途に定義を設定することが適当と考えられる。なお、この場合、小規模企業の実態、創業期の企業規模等にかんがみれば、製造業等につき20人以下、商業又はサービス業につき5人以下とする現行の基準は、概ね適当と考えられる。

 B 創業者の取り扱い

 現行の中小企業基本法では、中小企業者を特定の業種に属する事業を営む会社及び個人として定義しており、新たに事業を開始する創業予定者等については規定していない。今後、中小企業政策において創業者支援等が重要な課題となるなかで、新たに事業を開始する個人や事業開始後間もない企業等を適切に政策対象に位置づけていくべきである。

 今般、当審議会としては、新たな政策対象の範囲を提言したところであるが、今後、個別の施策を講ずるに当たっては、限りある政策資源の有効かつ効率的な配分を図る観点から、政策の評価を十分に行い、施策ごとにその対象範囲を定め、中小企業の経営革新や創業等に向けた自助努力支援、競争条件の整備、セイフティネットの整備という政策目標に照らし、中小企業の育成・発展のための効果が高いと考えられる真に必要な施策への重点化を推進するとともに、利用実績が低くなった事業や政策的意義の乏しくなった事業については、果断な見直しを図るべきである。

(3)政策対象の検討に際して留意すべき事項

 「多様で活力ある独立した中小企業の育成・発展」を図る上で前提となるのは中小企業者が「企業家」としての意識をもち、現状に甘んずることなく困難を克服し自らの運命を積極的に切り拓こうとする意欲と取り組みであり、かかる企業が政策対象として適切に捕捉される必要がある。
 他方、中小企業は多様な存在であり、規模、業種・業態、企業の成長段階はもとより、経営資源の蓄積や経営能力の面でも相当の違いが存在する。例えば、同一の定義で画される中小製造業であっても、ニッチ分野で世界的なシェアを有する企業が存在し、また、従来であれば下請企業に分類される企業でも企画提案型の企業がある一方、厳しさを増す顧客からの要求になかなか対応できない企業もあるなど複数の企業群に分けられ、それぞれの課題を抱えている。
 このため、政策の立案・実施に際しては、政策の目的に応じて対象となる企業群の抱える経営課題等を多層的に把握し、具体的な施策の対象範囲を捕捉していくようにすべきであり、また、それぞれの施策が効率的かつ効果的に実施されるよう、その弾力性が確保されるべきである。
 また、中小企業の事業活動の実態の捕捉には、サービス業等新たな業態の展開も踏まえた対応が必要であり、日本標準産業分類改訂の動向にも留意するとともに、統計の適切な整備を進めていくことが重要である。

第2節 政策の実施体制

 中小企業政策が、中小企業を取り巻く環境や、これに伴う中小企業のニーズ等の変化に的確に対応し、限られた政策資源で最大限の成果をあげるたものであるためには、中小企業政策の企画立案・実施において、市場原理を尊重し、市場機能や民間能力を積極的に活用するとともに、施策利用者等外部からの評価に常にさらされる環境を設定する等、「競争原理」が働きうる下で、施策が企画立案され、実施され、見直されることが必要となる。かかる観点からすれば、以下を政策実施の基本方針としていくべきである。

(1)政策評価の充実と施策の利便性の向上

 近年、政策の質の向上や説明責任の向上の観点から、政策評価の重要性が高まっている。中小企業政策においても、「施策がわかりにくい、活用しずらい」等の指摘がなされており、施策の企画立案過程におけるパブリックコメント制度の活用等による透明性、公平性の確保、施策の導入後における施策利用者からの評価等による施策効果の検証とその公表、各施策実施機関へのフィードバックなど政策評価手法の確立とその積極的導入が必要である。この場合、施策への受益者負担も、これになじむものについては、その適切な導入を図ることを検討する必要がある。このような受益者負担制度の導入は、施策の対象となる企業の自助努力を支援するとの原則に合致するのみならず、効果が薄い施策については、施策利用者である企業の厳しい選別を受けることとなり、行政の提供するサービスの質の向上に資するものになると考えられる。
 また、中小企業庁・通商産業局及び地方公共団体・実施機関は、インターネット等各種媒体の積極的活用、相談窓口の強化のみならず、中小企業に対する積極的、能動的な施策普及体制を整備すべきである。
 これらを通じ、施策の大括り化、手続きの簡素化等を進め、中小企業者にとって分かり易く使いやすい施策体系とすべきである。

(2)中小企業団体の機能強化

 商工会議所・商工会、中小企業団体中央会、商店街振興組合等の中小企業関係団体においては、中小企業の支援ニーズの多様化・高度化や今後の施策の重点の変化等も踏まえ、各施策における団体の位置づけや役割を改めて見直し、明確化することが必要である。同時に、各団体は、支援担当人員の資質向上のため、評価システムの導入や外部との人事交流、専門家の活用、即戦力のある人材の活用等による雇用形態の見直しなどに自ら努めるべきである。また、都道府県において中核的支援機関の整備と中小企業支援機関のネットワーク化、統合が図られる中にあって、都道府県と地区を同じにする団体にあっては、都道府県の中核的支援機関との役割分担、連携・相互補完の在り方を早期に検討する必要がある。
 他方、国は、ソフトな経営資源の充実強化を図る予算等につき、現在の団体別に編成されている予算を、可能な限り措置の具体的目的、すなわち機能別に編成し、各団体の実績と評価に応じた予算配分を行うことにより団体間の健全な競争を促進し、提供サービスの質の向上を促進すべきである。
 このような中で、商工会については、地域における総合的な経済団体として、その自立的基盤と機能の強化に向け、商工会活動の広域化や合併等を円滑に進めるための議論を進めるべき時期にきている。この場合、商工会活動の広域化や合併等を円滑に進める措置を講ずるなど、法的手段も含めて環境整備を図ることについても検討していくことが必要である。
 また、中小企業団体中央会については、中小企業の組織化ニーズの大きな変化を踏まえ、単に組合の設立・運営指導のみならず、中小企業の事業の発展段階に応じ緩やかな連携から会社制度までの多様な連携形態につきその形成・再編を支援し得るよう、連携支援機関としての専門性を高めていくことが必要である。

(3)民間能力の活用

 政策の実施に当たっては、民間に委ねるべきはこれを委ね、また、民間非営利法人や企業間の連携を支援する任意グループ等についても、適当な機能を有する場合には、積極的に施策実施に参画を求めるなど、民間の能力を政策の実施に積極的に活用し、出来る限り市場原理を活用する形で実施することが重要である。またこれにより、団体間及び団体と民間との健全な競争の活性化を図ることが可能となる。
 また、中小・ベンチャー企業に対するコンサルティングや、情報提供等が、基本的には市場を通じて提供されていくこととなるよう、かかる市場の育成・発展に向けて、適切な環境整備を図っていくべきである。

(4)地方公共団体との役割分担

 これまでの中小企業政策においては、地方公共団体は「国の施策に準じて施策を講ずる」主体とされ、一部の施策では国が実施細則まで決定し、都道府県が画一的に実施する状況にある。
 今後は、地方分権の推進に伴う一般財源化や機関委任事務の自治事務化等の趣旨も踏まえ、地方公共団体は、地域活力の源泉たる中小企業の振興を図るための施策を、地域の実情を踏まえ策定し実施するべき対等の行政主体との認識の下に、適切な役割分担を図って行くべきである。具体的には、国は基本政策のフレームワークの構築や指針の提示、競争条件の整備や創業・経営革新支援などに係る制度設計や真に全国的規模・視点で行われることが必要な施策のメニューの確保及び先進的なモデル事業・都道府県をまたがる広域的な事業等の推進に重点化すべきである。
 他方、都道府県及び市町村は地域の特性と実情に応じ、地域中小企業の振興の全体計画の策定、国の施策メニューの選択と地域特性に応じた独自の施策の追加、地域の支援体制の構築・整備等を創意工夫をしながら進めていくべきである。
 このような国や都道府県及び市町村の取組みを通じ、健全な地域間競争を一層促進していくことが、中小企業の事業環境の整備にとっても重要である。

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