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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』1999年5月号

乱伐と輸入自由化で荒廃した国内林業

国民合意の長期政策で森林保全を

全林野労働組合委員長 吾妻 實


 日本の国土の67%、3分の2が森林です。国有林が国土の21%、都道府県や市町村の所有する公有林が7%、私有林が39%の面積を占めています。日本は北欧と並ぶ森林の率が高い国ですが、都市部と山村部が分断されいて都市部の方々の森林に対する関心が低いと思います。

 戦後2回の乱伐と自由化

 国土の3分の2が森林ですが、現在の日本の森林は大きく荒廃しています。原因の一つは戦後2回の乱伐です。第一段階は、戦後の復興期です。戦後復興の木材を提供するために大量に伐採した。第二段階は、池田勇人の所得倍増計画以来の高度成長の時期です。この2回の時期をへて森林が大きく伐採されました。木は切った分だけ植林する、手入れをして育てる、そして計画的な伐採というシステムがなければ、森林の持続性は確保されません。ところが日本の政治や経済はそれを許しませんでした。
 もう一つは、木材の輸入自由化です。昭和35年(1960年)に丸太材の自由化。木材製品が自由化されたのは昭和37年(62年)です。それも関税がゼロという丸裸の完全自由化でした。
 当時は低賃金労働者がたくさんいて大量の伐採が可能でした。また木材価格が上がっていた時代でしたから、関税がゼロでも大丈夫だという発想が林業関係者の中にありました。ところが、安い外材が大量に輸入されるようになり、国内林業は採算が取れなくなった。林業の仕事がなくなり、林業労働者は激減。78年には18万人いた林業就業者数は、98年には6万人に激減しています。林業労働者の7割が50才以上と高齢化が進みました。
 戦後復興や高度成長が優先され、計画をこえる量が伐採された。さらに木材の輸入自由化で国内林業が衰退し、森林の内容を変えていった。台風でも来ればマッチの軸木をばらまいたように倒れてしまう様な劣弱な林が増えています。

 国内林業の衰退

 現在、国有林の赤字が3兆8000億円、公有林や私有林を合わせると5兆円突破すると言われています。赤字の原因は三つあります。一つは山村に大量にいた低賃金労働者がいなくなった。二つ目は、戦後復興と高度成長の時期に大量伐採が行われ荒廃した。三つ目は木材価格が輸入材の増加で大幅に下がりました。昭和55年と比べると今の木材価格は55%まで下がっています。輸入材は増えつづけ、国内で使う木材のうち78%が輸入材です。
 1978年当時、国有林の要員は6万5000人いましたが、赤字を理由に4分の1の1万6000人(98年)まで減らされました。しかし、赤字体質は変わりませんでした。
 計画以上の大量伐採で国内林業を利用つくし、そして自由化後は輸入に頼り国内林業を犠牲にした政府の政策が赤字の原因です。
 農業は1年サイクル、野菜なら2、3ヶ月サイクルです。林業は1回木を植えると50年、100年の計画です。最近、自然保護団体などからブナの木を植えてもらえないかと言われます。皆さんが想定されている青森県の白神山地の直径1・5〜2メートルのブナの木になるには250年以上もかかります。250年後に社会的価値、経済的価値を政府が担保してくれるのならブナの木を植えることに賛成です。
 ただ、最近、杉花粉症が大騒ぎになって杉林が批判されています。その杉は戦後、杉の木が必要だということで国策として植林されたものです。それがたかだか数十年で、花粉症の原因は杉の木だ、害だから切るべきだという。簡単に政策が変更されるようでは林業は成り立ちません。
 70日で生産できる大根は1本200円です。ところが、20年経っている間伐材は100円です。経済合理性だけで考えれば、山に木を植えるより、大根を植えた方が儲かるんです。しかし、それでいいのかを考えていただきたい。
 森林には計画的な伐採と植林を通じて木材資源を供給する役割があります。また、森林は二酸化炭素を吸収して酸素を出します。地球環境にとって重要な役割があります。さらに、大量の雨が降っても下流で洪水にならないように、森林には保水機能があります。緑のダムの役割です。ところが国内林業は衰退し、手入れがされていないので荒廃が進み、現在の森林の保水能力は相当に低下しています。森林を管理せず放置してきたから、被害が起きやすい森林になってきています。
 昨年の10月に国有林改革関連2法が成立しました。赤字の一部は面倒見るかわりに、さらなる人員削減が主な内容です。国有林の要員を5200人規模まで減らすという。定年退職者が約1500人もいるのに、新規採用はわずか200名。新規採用を極端に抑える、中堅どころを他の省庁に配転させる、これが国有林での人減らしです。その結果、一般公務員の平均年齢は39歳なのに、国有林は50歳です。さらなる人員削減では森林の管理保全は困難で、ますます国有林は荒廃します。
 審議会でそういう結論になった背景には、多くの都会の人たちに、森林の多面的な機能や役割が理解されていないのが原因だと思います。都会の人たちは、水も空気もただという意識をもっている。大量生産、大量消費、大量廃棄は当たり前という意識があるのではないでしょうか。水飢饉、食糧危機にならなければ、農山村の大切さが理解されないのかと思うと残念です。

 森林保全の長期政策と国民合意を

 環境問題が世界的な問題になっている時代に、これまでのように大量の木材輸入は続けられなくなると思います。一つは日本の大量の木材輸入は外国の森林を荒廃・破壊させています。二つ目は木材を輸入することは、二酸化炭素を輸入することです。三つ目は、二酸化炭素を吸収する国内の森林を放置し荒廃させるています。日本は三重の意味で環境破壊を行っています。このことに国民全体が気が付く必要があります。
 杉花粉症の問題で、杉林が悪者にされています。私は複合汚染だと思います。道路も建物もコンクリート、冷房の普及、さらに自動車の排気ガスなどで、都会の気温は異常に高くなっています。とくに高温の夏になると、都市部での冷房による熱波が夜に秩父などの山に届きます。環境が悪化すれば生命体としての杉林は、杉花粉を出し種を保存しようとする。前年の夏が異常高温の場合、翌年の春に花粉を大量に出します。間伐など手入れをすればかなり防げます。つまり杉花粉問題は、異常気象、環境破壊、森林荒廃を放置している人間への杉林の叫びです。
 「持続可能な森林経営」と「循環型林業」を調和させていくには、林業関係者だけの努力では不可能です。森林の多面的な機能を保全するために、国家予算を投下する50年、100年単位の長期政策が必要です。それを支える国民的な合意、市民の運動が必要だと思います。
 私たちは14、5年前から、学者文化人、農林関係者などの協力を得て、森林フォーラムや緑の国民会議をつくり、森林に対する国民的理解の努力をしてきました。運動方針でも、市民ボランティアなど国民と力を合わせて森林を守ろうと決めています。それが私たちの社会的責務だと思います。
                                             (文責編集部)