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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』1999年3月号


介護保険制度を考える

武蔵野市福祉保健部介護保険準備室室長 会田恒司



 武蔵野市の問題提起

 武蔵野市は介護保険問題について2種類のブックレットを作りました。1997年6月頃、市長から「介護保険法には様々な問題があるからプロジェクトを組んで研究しろ」と指示を受けました。研究を始めましたが、介護保険法案は読めば読むほど中味が分からない状況でした。法律が成立する前に問題点を明確にして、全国的にアピールしていく必要があるという市長の判断で、ブックレットの第1号を出すことになりました。これが97年9月です。その少し前に、市報の特集号として、介護保険制度の説明と問題点を明らかにして全戸配布をしました。
 第1号のブックレットで提起した問題点は、1.保険あって介護なし、2.コンピュータによる介護認定は正しいか、3.困った時にサービスが受けられるか、4.選択されてしまう被保険者、5.知られていない被保険者負担、6.厚生省がすべてを管理する中央集権の制度、7.2000億円のむだな事務費。以上の七つです。
 介護保険法案は、衆議院と参議院で何度か審議され、付帯事項などもついて97年12月に法律が成立しました。ところが215条もある法律の条文を読んでも中味が分かりにくい。加えて300近い政令や省令、委任事項が出されないと具体的にどんな内容になるか分からないという状況が続きました。翌、98年1月から厚生省が、担当課長を集めて説明を始めましが、昨年9月段階になっても、七つの問題点は解決されないままでした。そこで、法案が通って1年になる昨年12月にブックレットの第2号を出しました。内容は、四つの問題提起と武蔵野市の提言です。第1号と同様に、市民方々に全戸配布、全国の都道府県知事や市区町村長、全国会議員、主要なマスコミ、それに福祉関係の学識経験者にお送りしました。

 保険あって介護なし

 まず第一に、必要な特別養護老人ホームやホームヘルパーなど介護サービスの基盤整備が、介護保険がスタートする4月まで間に合うのかどうかという問題です。
 新ゴールドプランに基づいて、各市町村が基盤整備を進めていますが、過半数の市町村が達成困難だと言われています。武蔵野市では、いろんな工夫もして特別養護老人ホームの整備目標は100%達成しています。それでもなおかつ、入所を希望されながら入所できない待機者が200名を超えており実際の需要に追いつきません。
 新ゴールドプランというのは、介護保険を前提とした計画ではありません。これまでの措置という形でのサービス提供を前提にしています。新ゴールドプランの基盤整備の達成が容易ではありませんし、たとえ達成しても、介護基盤、人材も含めてサービス不足のまま突入という状況は避けられないと思います。つまり制度はスタートして保険料は徴収されても介護が受けられない、「保険あって介護なし」の状況になり混乱と対立が生まれると思います。
 武蔵野市の提言は、サービス不足によるスタート時の混乱を回避するためには、国が介護保険制度を前提とした計画を策定し、必要な財源措置を思い切って行う以外にないと思います。また家族介護が報われるよう制度も必要だと思います。

 困った時にサービスが受けられるか

 介護保険制度では、保険証を持っているだけでは介護サービスを受けることはできません。サービス給付を受けるためには、市町村に申請を行い、認定を受ける必要があります。保険証1枚あれば、いつでもどこでも医療機関で受診できる医療保険との保険証とは違います。
 要介護認定の決定は、「申請があった日から30日以内に」となっています。申請→訪問調査(面接)→コンピュータによる第1次判定→1次判定と「かかりつけ医」の意見書などを基に介護認定審査会による2次判定という流れになっています。さらに、要介護認定→ケアプラン作成→サービス提供という手続きになりますので、実際のサービス提供まで30日以上かかることもあります。
 現行の公費による福祉制度に比べてサービス提供が大幅に遅れることは確実です。例えば、武蔵野市の場合、ホームヘルプサービスなど在宅サービスについては、相談があった日から7日以内に提供できるよう努力しています。調査のための訪問で緊急を要すると判断したら、その時点でサービスを開始します。介護保険制度では、あくまで認定手続きが前提です。緊急を要するような場合は、特例として暫定のケアで対応できることになっていますが、あとになって暫定のケアと介護認定で差が生じたらその分は本人負担ということになります。

 コンピュータによる介護認定

 介護保険では、「要介護」(5段階)か「要支援」と判定されなければ介護サービスを受けることができません。
 どういう基準で認定するのか、厚生省が平成8年度からモデル要介護認定を3年やりました。武蔵野市も10年度にやりました。コンピュータによる第1次判定は、85項目の質問に「できる」「できない」などの簡単な選択肢で答えてマークシートに記入してコンピュータ処理で判定するやり方です。結論的にいうとコンピュータによる判定は信用できないという状況が出てきました。
 例えば、第1次判定では片手マヒであったケースを、片手・片足マヒに修正し、コンピュータで再判定したところ「要介護3」から「要介護2」へ下がった。また、第1次判定で「要介護4」であったケースについて、痴呆による問題行動の「作話をして言いふらす」「幻視・幻聴」「暴言・暴行」をいずれも「なし」から「ときどきある」に修正し、コンピュータで再判定したら、「要介護3」に下がってしまった」などです。つまり、状態が悪くなったのに要介護度が下がってしまう判定が出てしまった。
 コンピュータによる第1次判定と、「かかりつけ医」の意見書に基づいて専門家で構成される「介護認定審査会」が行った第2次判定で、評価が相違した比率は全国で約30%もありました。コンピュータで生身の人間の要介護度を計ることは無理があると思います。
 また、平成9年度の判定では要介護度5の比率が2桁あったのに、10年度では1桁になっています。厚生省は、痴呆と医療的な処置について重く判定させるように手を加えたと説明しています。しかし、厚生省が見込んでいる介護の財源4兆2000億円の枠の中におさまるように、要介護度の配分を2とか3に集中するように変えたとしか思えません。
 厚生省は、コンピュータ判定のソフトを何らかの方法で開示したいと言っています。それも大事ですが、「隣のおじいちゃんは要介護度3なのに、どうしてうちのおばあちゃんは要介護度2なのか?」という具体的な質問に、各自治体の窓口では「コンピュータの判定ですから」と答えるしかないのです。これでは国民の納得は得られず、各自治体の窓口で混乱で予想されます。
 武蔵野市は、厚生省が誰が読んでも分かるような認定基準と給付基準を示すべきだと提言しています。どういう状態・症状なら要介護度はいくつ、そしてどういう介護サービスが受けられるのかが分かるような表をつくる。そしてコンピュータ判定はあくまで参考資料程度にして、2次判定の認定審査会による専門家の目できちんと判定していくことが必要です。

 保険料などの負担と介護サービス

 40歳以上の人が保険料を払うことになっていますが、厚生省は、介護保険料は収入に応じて5段階に区分し、月額平均2500円と見込んでいます。しかし、2500円は平成7年の厚生省の推計値です。介護の財源が全体で4兆2000億円という財源を前提とした推計値です。保険料は3年ごとに見直し(値上げ)される予定です。厚生省が推計したよりもサービス水準が上がれば財源の総額が当然上がるわけです。全国市長会の調査では、保険料は3000円から4000円なければ運営できないという回答が6割もあります。
 65歳以上で一定の年金受給者(月額1万8000円以上)からは保険料が天引きされます。年金の少ない方や無年金の方は、市町村が個別に請求し納めてもらうことになります。果たして、比較的収入の少ない高齢者がこれだけの負担に耐えられるかどうか心配です。
 次に具体的にサービスを受けた時の利用者負担。現在の公費措置型の制度では、利用者の所得に応じて負担額が設定されていますが、介護保険制度では所得に関係なく、サービス費用の1割が自己負担となります。従来の制度で、低所得のため比較的低額でサービスを利用できた人にとっては、毎月の保険料と1割の利用料負担が重くのしかかることになります。
 また40歳以上で65歳未満の人は、加齢を原因とした要介護の場合(特定疾病)のみが対象で、保険料を払っていても、例えば交通事故で要介護状態になっても介護サービスの対象になりません。さらに、国が定める最低生活基準を上回っている方が、保険料の滞納を続けると介護保健サービスを受けられないことになります。
 今までの福祉は措置型ということで悪者にされてきましたが、武蔵野市では水準の高いサービスを提供していました。例えば、月40時間まではどんな所得の方でも無料でホームヘルプサービスを提供していました。ところがホームヘルプは介護保険の大きな柱ですから、、他の法律に優先して介護保険の方が適用されます。そうなると40時間まで無料でやっていたサービスが自己負担になります。サービス提供の回数も、介護度で計画されますのでホームヘルパーが月40時間が月20時間になるかも知れません。現行の措置制度と比較して、サービス水準が低下する現象が起きると思います。そういう介護保険と既存のサービス提供をうまく切り分けていくのか最大の課題になっていると思います。
 武蔵野市は、「現行消費税5%のうち、2%を公的介護保険の財源にあてる。この消費税相当額を全国の65歳以上の人口に応じて市町村に交付し、これを財源として介護保険を運用する」という内容を提言しています。

 特別養護老人ホームの経過措置

 介護保険制度では、自立や要支援と判定されると施設への入所はふさわしくないと判断されます。そこで現在、特別養護老人ホームに入所されている人たちが、介護保険制度になると施設から追い出されるのではないかという問題が出ています。厚生省は、要介護度に関係なく経過措置として5年間は退所しなくてもいと話しています。しかし、実際は難しい問題が発生します。
 現在の特養の運営費用というのは措置費という名目で、要介護度に関係なく、1人月額29万円とか30万円という水準が特養に支払われています。介護保険制度がスタートすると、入所者の要介護の認定が行われ、要介護度に応じて単価が支払われることになります。ですから要介護度の低い人が多いと、特養の収入(介護報酬)は減少して運営が苦しくなります。中には「自立」とか「要支援」とか認定される方も出てくると思います。5年間の経過措置があるとはいえ施設にいずらい状況になります。
 しかし、そういう方々が特養に入所されているのは身体以外の要素もあるわけです。そういう方は経過措置の5年間の間に、行き場を探さねばなりません。この問題は各自治体がやってくれというのが厚生省の考え方です。比較的自立度は高いが、他に行くところがないから特養に入所されている方も結構おられます。その方が施設を出るとなると、住む場所の確保、生活の問題、在宅サービスの提供など大きな問題が出てきます。そういう問題がきちんとされないと、特養からは自立や要支援の人は出ていただくといっても、現実としては非常に難しい感じがします。

 サービス不足のままの出発

 全国町村会は条件が整わない場合は実施の延期を要請しています。しかし、国が一旦制度として決めた以上、条件の整わない自治体の延期を認めることはないと思います。結局、保険料だけ支払う「保険あって介護なし」という状況が現実になってくると思います。おそらく来年4月には様々な混乱の中で介護保険は出発すると思います。
 5年後に制度そのものも含めて検討するとなっていますので、その時にどうなるかと言うことも視野に入れておく必要があると思います。その時の大きな検討の要素として、障害者施策をどうするのか、障害者へのサービス提供をどうするのかという問題があると思います。全国で障害をもっている方が500万人、そのうち、精神で障害をお持ちの方で入院されている方が全国で35万人おられます。新ゴールドプランの特養が29万人程度。障害者の方を介護保険でサービス提供するとすれば、厚生省が見通している財源ではとてもまかなえません。そうすると月額平均2500円という保険料のレベルではなくなってきます。そうなったら保険料を取り続けられるのかという問題が起きるわけです。
         (文責編集部)


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