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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』1999年4月号

買いまくり、借りまくり、

投機で繁栄するアメリカ経済・・・そして、日本は

埼玉大学教授 鎌倉孝夫


 貿易赤字・借金大国の
 見かけの経済繁栄

 アメリカ経済は、8年連続の好景気が続いています。成長率は3%から4%で、先進資本主義国の中では高い成長率を維持しています。物価も非常に安定しており、98年の消費者物価の上昇率は1%台で、卸売物価は前年より下がっています。失業率も表面的には下がっています。株価は1万ドルを超えて、ウォール街は活況を呈しています。
 ところが、こうした景気のよさは表面的なもので、アメリカの貿易収支は毎年大変な赤字です。98年の貿易赤字は2308億ドルにのぼり、そのうち640億ドルは対日貿易赤字です。日本との貿易不均衡も拡大しつづけています。
 もう一つの著しい特徴は、アメリカの対外資産から対外負債を差し引いた純資産がマイナスになっていることです。つまり純負債、借金が増えつづけているのです。96〜97年の1年間に純負債は4900億ドルも増え、97年の借金残高は1兆3224億ドルに達しました。アメリカは猛烈な借金大国です。逆に日本は純資産は増えつづけ、97年には9587億ドルになりました。
 アメリカは表面的に景気がいいように見えますが、輸出で稼ぐ以上に外国から商品を買いまくり、貿易赤字額以上の資金を借りまくっているのです。それは完全に外国からの借金によるバブル経済の膨張です。
 なぜこうなったのか、なぜこんなことが続けられるのか。基本的にはニクソン・ショックにまでさかのぼって考える必要があります。
 1971年8月15日、ニクソン大統領は新経済政策を発表し、ドルと金の交換停止を宣言しました。アメリカの国際収支が赤字になり、ドルと金の交換を維持できなくなったからです。ドルが売られ、ドル価値が下がりました。アメリカの当初のねらいは、ドル価値の切り下げによって貿易黒字を回復することにありました。
 しかし、そのねらいはほとんど実現できず、アメリカは76年から今日まで貿易赤字を出し続けています。いろんな原因がありますが、要するにアメリカの国際的な輸出競争力が落ちたということです。輸出競争力が落ちる中で、アメリカの多国籍企業は外に出ていく。産業は空洞化し、必要な物はますます輸入に依存する。こうして貿易赤字が続くわけです。
 ところが、アメリカが他の国と決定的に違うのは、ドルが世界唯一の基軸通貨だということです。貿易赤字といってもドルで支払うのですから、開き直ってドル紙幣をどんどん印刷すれば支払いに困らないわけです。しかし、ドルが世界中にたまってしまう。たまって使い道がないということになればドルが暴落する危険性があります。
 そして85年のプラザ合意です。アメリカの双子の赤字を調整するため、各国が一斉にドル売りの協調介入を行って、円高・ドル安にしました。アメリカのねらいは、円高で日本の輸出競争力をそぎ落とし、ドル安でアメリカの輸出を拡大することにありました。
 しかし、プラザ合意も効きませんでした。日本の大企業は労働者を犠牲にした合理化を強行し、生産コストを引き下げて、あっという間に競争力を回復したからです。そしてバブルになり、それが破綻して大変な不況になると、さらにリストラ合理化を強行するわけです。日本の貿易黒字はどんどん拡大し、アメリカの貿易赤字は増えるばかりです。

 ヘッジファンドを支える
 ジャパンマネー

 あまり円高になりすぎたので、95年に円安・ドル高に転換させようという展開になりました。そのために、アメリカの公定歩合を引き上げ、日本の公定歩合を引き下げました。アメリカと日本の利子率の差が急激に開いたわけです。その結果、日本が貿易で稼いだドルは、高金利を求めてアメリカにもどっていく。アメリカにとって借金ということですが、ものすごい量の資金がアメリカに流れていきました。
 その資金を利用して、アメリカではヘッジファンドが投機を拡大しました。ヘッジファンドの資産規模は、IMFの統計で97年度が900億ドルとなっていますが、実際は5000億ドルとも言われています。実態は闇の中です。ヘッジファンドのほとんどが本店をカリブ海のケイマン諸島などのタックスヘイブン(租税回避地)におき、課税や規制を逃れて活動しているため、正確なデーターが得られていないからです。
 ヘッジファンドは大金持ちから金を集め、その金をベースにして銀行からその何倍もの金を借ります。その資金で外国為替、株式、債券、デリバティブを取り引きして、投機的な利得を得るわけです。アメリカの金融資本は日本などから借りた金をヘッジファンドに貸すだけでなく、自らもその金で投機的な取引をやっています。
 日米金利差の拡大で資金が流入した95年から、アメリカの株価はものすごい勢いで上がりました。
 アメリカのヘッジファンドや金融資本は、国内の株だけでなく、世界中を投機の場にしています。その投機の対象としてねらい打ちされたのが、タイでやインドネシア、そしてロシア、ブラジルです。ヘッジファンドはどんどん金を貸し付けて成長をあおり、危なくなると一斉に引き上げる。その過程でぼろもうけするわけです。そういう投機の元手は、日本など海外から借り入れた金だったのです。
 日本は非常に貯蓄率が高いのですが、アメリカはめちゃくちゃに低く、マイナス貯蓄になっています。失業率は下がっていますが、その実態を見ると、労働者の過半数がパートタイマーです。賃金水準は70年代の2分の1に下落し、貧富の差が拡大しています。そういう状況の中で、労働者、国民の貯蓄率はマイナスになっているのです。401Kという年金資産を投資信託で運用しているので、株が上がると資産が増えます。それを担保に金を借りて、収入以上に消費しまくるという状況になっているのです。
 アメリカは基軸通貨国であることをいいことに、貿易赤字でドルをたれ流す。たれ流したドルを、内外金利差を利用してアメリカに還流させる。つまり、外国から金を借りまくる。その金を使って、国内で世界中で博打をやる。巨額の貿易赤字をかかえ、大借金国になりながら、表面的には景気がよい。これがアメリカ経済の実態です。

 日米金利差を維持せよ
 綱渡りの投機経済

 しかし、こんなことを、いつまでも続けられるはずがない。ヘッジファンドが怪物みたいに世界中をうろつき回って、タイやインドネシア、韓国の実体経済をボロボロにしてしまった。そうなれば自分たちの収奪の基盤も失われるわけです。ロシアの経済危機で、それが端的に表れました。
 ロシアの経済危機では、主要なヘッジファンドが投資していた金を焦げつかせました。ロング・ターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)というヘッジファンドは、それで何十億ドルという赤字になり、倒産寸前になったわけです。それをニューヨーク連銀が音頭を取って、必死で支えました。アメリカの一流銀行がみな、LTCMに融資していたからです。スイスのユニオンバンクも、日本の住友銀行も融資していました。LTCMが倒産すれば、大変な金融パニックになりかねなかったのです。
 そうすると、アメリカの株価が8月、9月と暴落し始めました。それでアメリカは、9月、10月とたてつづけに公定歩合を引き下げました。ところがアメリカの金利を下げると、日米金利差が縮小して日本から資金が入りにくくなります。
 他方、日本では政府が大量に国債を発行し、市中の金融機関に買わせるものだから、12月から国債の価格が下がりだしました。それで宮沢蔵相は日銀が国債を買い取るのは止めようと言いだしました。日銀は預金保険機構や民間に直接貸付をやりだしたり、FB(短期の大蔵省証券)を買ったりして、国債も32兆円買っていたので、日銀資産がますます目減りするからです。
 国債の値下がりは市中金利の上昇でもあります。アメリカが公定歩合を下げているところへ、日本の金利が上がり始めたわけですから、アメリカはあわてました。日米金利差が縮小すれば、日本からアメリカへドルが還流せず、アメリカのバブル経済を維持できなくなるからです。
 そこで、アメリカは日本に利子率の引き下げを要求しました。ルービン財務長官は、日銀が国債引き受けをやるべきだと迫りました。このままではアメリカ経済が大変なことになり、日本がアメリカに貸し金は戻らず紙屑になるぞと脅してきたわけです。それで、野中官房長官は日銀の国債引き受けを言い出しました。
 しかし、日銀が国債を直接引き受けたらどうなるか。低金利ですから、資金はますますアメリカに流れて吸い取られてしまいます。1万円札をどんどん刷ることになるわけですから、インフレになっていきます。
 1931年の状況とものすごく似てきます。当時は、まずイギリスが危機になり、1931年9月17日にポンドと金の交換を停止した。その翌日の9月18日、日本が満州で侵略戦争を始めた。軍拡をしていかなければならないので、日本はその年の12月13日に高橋是清が金本位制を止め、日銀が国債の直接引き受けを始めるわけです。
 ドイツでは、33年からヒットラーが政権を握ります。第一次大戦の敗戦国で、監視下にありましたから、最初は高速道路など公共事業拡大の資金として、潜りの手形を発行する会社を作り、その手形をドイツ銀行が買い取ることをやりだした。事実上のドイツ銀行による国債引き受けです。そして、34年くらいから本格的に軍拡の方向に行きます。
 アメリカも34年に金準備法で、ドル価値を1オンス=35ドルに引き下げます。各国はみな自国通貨の切り下げ、ダンピングに走り、国内的にはインフレ政策をとります。その結末が帝国主義戦争、第二次世界大戦です。
 戦前は、軍部と軍需産業の要求で日銀の国債引き受けをやりました。今は、アメリカが要求して日銀の国債引き受けをやらせようとしているわけです。
 今のところ、日銀は国債直接引き受けを拒否していますが、市中に潤沢な資金を流してゼロ金利に誘導しています。その金はアメリカに吸収され、アメリカのバブルをさらに膨張させることになります。アメリカの株価が上がれば上がるほど、落ちる時も大きく、大恐慌の要因を増幅していることになります。

 限界にきた対米従属体制
 踏み出せぬ政府・財界

 日本は戦後、対米従属のもとで急速に資本主義を復活させ、高度成長によって帝国主義的な基盤を成熟させてきました。そして、70年代末から、日本の黒字、アメリカの赤字という形で日米貿易の不均衡が拡大しました。
 その結果、80年代、90年代にアメリカの対日経済要求はエスカレートしていきます。繊維に始まり、木材、鉄鋼、テレビ、自動車、半導体、そしてコメを含む農産物にまできたわけです。アメリカはスーパー301条で制裁措置をちらつかせながら、もっとアメリカの製品を買え、内需を拡大せよと迫ってきました。ところが日本に内需拡大の基盤がなく、政府は財政に依存した公共事業を拡大して、国債という借金を増やしてきました。
 国債発行は70年代末から増えています。80年代に入って、中曾根の行革で若干減り、85年から91年まではバブルで財政収入が増えたのでかなり減りましたが、90年代に入ると再びものすごい勢いで増えています。財界が不況対策として公共事業を含む財政支出を要求しただけでなく、アメリカが内需を拡大せよと630兆円の公共事業を迫ってきたからです。
 それではアメリカから何を買うかと言うと、買う物は農産物か兵器しかない。工業製品は飛行機や大型コンピューターなど一部のものです。大半は兵器と農産物で、無理して買わされた。一方で財政危機をつくりながら、他方で国内経済の基盤である農業をつぶされる。本当に愚かなことです。
 アメリカはさらに、すでに述べたように、アメリカへドルを還流させるため、日米金利差の維持、日本の低金利を要求しています。90年ころのCIAの報告書には、日本をやっつけるのはモノづくりではなくて金融だとあります。日米金利差の維持は、アメリカの金融戦略の重要な一環です。
 アメリカのもう一つの要求は徹底した規制緩和です。金融の規制緩和、そして、コメはついに関税化へ追い込まれました。基本的には自由化しろということですから、1キロ351円、1000%という関税を何年も続けられるはずはありません。アメリカはWTOに提訴すると言っています。そこで叩かれたら、輸入禁止的な高関税は一発で吹き飛ばされます。
 アメリカ政府の一方的な要求に追従するだけの対米従属体制は、ぎりぎりの限度に来ています。このままアメリカの言いなりになっていていいのかという意見は、財界の中にもあります。しかし、彼らには踏み切れないと思います。
 踏みきれない一つの要素は、日本がドル依存で、EUのような形でアジアに共通通貨圏をつくれないことです。もう一つは、新ガイドラインとも関わりますが、日本の進出に対してアジアの民衆が反乱を起こすような事態になった時に、アメリカの軍事力に頼らざるを得ないことです。情報もそうです。日本は朝鮮がミサイル発射という最初の情報で国会決議をしましたが、アメリカ国防省は最後に人工衛星だと認めました。アメリカの情報で日本は最後まで完全に振り回されたわけです。
 ドル、核を含む軍事力、そして情報と、この三つがアメリカに握られているのです。アメリカに従属してきた体制そのものが本当にぎりぎりのところまできているのですが、政府も財界も踏み切れず、結局はアメリカの言いなりになり、ドル体制を支えつづけています。しかし、日本が今のような状態のまま、アメリカで株が暴落するような事態にでもなれば、日本経済は崩壊してしまうでしょう。
 日本の進路を転換する重大な時期に来ています。アメリカと一体になる方向ではなく、それに代わってアジアとどういう連携がとれるのか、私たちは新しい日本の進路を考えていかなければなりません。
                                                       (文責・編集部)