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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』1999年1月号

広範な国民連合第6回全国総会記念講演(要旨)

変貌する世界経済−アジアの状況と日本

東京大学名誉教授 隅谷三喜男 


 グローバリゼーション

 最近、新聞や雑誌などでグローバリゼーションという言葉がよく使われています。グローバリゼーションは直訳すると、地球化するとか地球的規模になるということです。特にこの30年、経済が国の規模を越えて世界的な規模、地球的な規模で動くようになりました。経済だけでなく、政治やいろいろな社会的現象もそうです。
 歴史的に考えてみると、徳川期の農民や一般庶民が日本全国のことを考えることはなく、国民という概念はありませんでした。国民とか国家という概念は、明治維新以降、徴兵検査や日清戦争・日露戦争を通じて庶民の中に植え込まれました。その国家も第二次大戦後は大きく変化しました。国際連合のように、国家がその枠を段々小さくして、世界が共通の目標を持ち共同の行動をとって、なるべく一つになろうという流れになっています。
 特にこの30年は、モノ、カネ、ヒトが国境を越えて自由に流動するようになりました。ジェット機で庶民が海外旅行に出かけ、外国人労働者もたくさん入ってくるようなことは、戦前には考え及ばなっかったことです。さらにその背後で、資本が非常な勢いで国際化しています。例えば、私の事務所の近くにGE・エジソンという保険会社があります。GEというアメリカの電機会社が東邦生命を買収したものです。アメリカ資本があらゆる領域にわたり、世界的に進出しているのです。
 とりわけ情報の国際化は私たちの想像を絶するものです。アメリカの巨大資本は、どこの国のどういう企業の株がどのように変動したか、全世界の細かい経済情報をリアルタイムでキャッチできるシステムを持ち、刻々の動きに対応して短期資本を引き揚げたり投入したりしています。彼らがキャッチしている世界経済の情報は日本政府の比ではありません。まさにグローバリゼーション中のグローバリゼーションです。世界はそういう時代になっているのです。

 アジア経済の状況

 戦後は各民族が独立して、独立国家が百数十も出来ました。そうした独立国には大きく分けて二つのタイプがあります。一つはある程度経済が発展した国で、もう一つは発展の条件に恵まれず貧困のままの国です。アフリカ諸国は後者で、経済が停滞し大変困窮しています。余談ですが、日本はそのアフリカに対する最大の債権国です。ヨーロッパの援助は大部分が贈与だから債権として残りませんが、日本は貸与でアフリカの国々が返済できないため、日本の債権がふくれあがったのです。
 発展した国々の最初のケースはラテンアメリカです。アメリカ資本が多少の技術も伴って入り経済が成長しました。ブラジルが典型で、国土が大きく人口が多いから購買力があります。マーケットは国内市場が中心で、外国に輸出するのはまれです。ところがある程度まで生産が増大するとマーケットがいっぱいになり、ラテンアメリカの経済成長は20年前に比べると停滞しています。
 もう一つのケースは東アジアです。発展のしかたは、外国資本を導入して、輸入していた製品を自給する輸入代替でした。ところが、国内市場が非常に狭いため、近代技術を導入した工場はたちまち過剰生産になります。そこで過剰の製品を輸出する。国内は低賃金だから、品質は劣らぬのに価格は安い。アメリカなどへ輸出が大変な勢いで増えました。国内総生産の30〜40%が輸出です。原料や機械は輸入ですから、黒字は多くありませんが、大変な勢いで経済が成長しました。日本を大きな龍にたとえて、韓国、台湾、香港、シンガポールは4匹の小龍と言われました。
 韓国の場合は、政府の監督下で国内資本が外国の資本を借りて、経済の成長はかなり順調に進みました。それが限界に近づくと、韓国財閥は海外に出ていって、政府のコントロールが及ばないところで、外国資本を導入しました。ところが海外に出ていった資本がうまくいかなくなる。グローバル化したアメリカ資本がこれをキャッチし、韓国に貸していた資金を引き揚げました。韓国財閥は資金繰りが出来なくなり、韓国経済は崩壊現象を起こしてIMFに頼らざるを得なくなりました。タイの場合も成長の資金はほとんど外国資本です。タイの経済がうまくないとみた外国資本が一斉に撤退して、タイは資金的に首が回らなくなりました。タイ経済もこうして崩壊現象を起こしました。
 それまでは、アジアの経済は天に昇る勢いで成長し、21世紀はアジアの時代とも言われましたが、1年前から青息吐息ということになったのです。そのかげには、グローバル化したアメリカの金融資本の動きがあります。

 日本経済の状況

 日本人は多少余裕があれば銀行に預金します。サラリーマンの給料も銀行に払いこまれます。銀行はそれを運用して利益を上げる。バブルの時には、不動産、株式、中小企業、東南アジアなどに投資しました。企業の場合は現地に子会社を作って直接投資しました。それが焦げつき、難しい問題に直面しています。
 その点でアメリカ資本は日本と違い、より短期の金融資本として行動する。世界の経済情報を把握し、この国には投資した方がいい、この国は危ないと、資金が瞬時に移動します。アメリカの市民も日本と違い、銀行に預金しないで株式に投資する。投資会社が情報を握って、ここに投資したらどうかと誘うわけです。
 最近のアメリカの株価上昇は、景気がいいからではありません。世界的に景気が悪くなり、対外投資していたアメリカの資本がだぶついて、国内の株を買っているのです。だから、長続きしないと思います。アメリカの株価が暴落すれば、世界不況につながります。
 バブルの崩壊とアジアの経済危機が重なって、日本経済は困難に直面しています。しかし、日本の場合は借りた金が返せないのではなく、貸した金が焦げついたのです。経済構造も東南アジアや韓国とは非常に違います。日本は資源が少なく外国貿易に依存しなければやっていけない、というイメージがまだ残っていますが、戦後の日本は大きく変わりました。労働組合のがんばりもあって国内の購買力はかなり大きくなり、経済成長のために国内投資が行われ、日本経済は国内市場を中心に展開されてきました。輸出はGNPの13%、輸入は8〜9%で、国内市場が圧倒的な比重を占めています。苦しいと言いながら、現在も金を貸す方です。だから、日本経済の舵をうまくとれば、国内で経済再建の道を確立することは、やれないことではありません。この点は経済学者などがもっと立ち入って議論すればよいと思います。
 今日は一般的に状況をどう理解したら良いかを話しました。広範な国民連合が自主的で平和で民主的な世界的協力を求めて戦争を拒否し、そのために自主な活動をしていこうとすれば、国内の経済政策についてもきちんとした考えを持たなければなりません。そのために、まだいろいろ議論しなければならないことがありますが、時間が来ましたので、私の話はここまでとします。

  (文責・編集部)