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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』1999年1月号

日中平和友好条約締結20周年シンポジウム

21世紀のアジアを展望して―日中両国の果たす役割―


問題提起(要旨)

元中国大使 中江要介


 日中平和友好条約締結20周年を迎えた今、21世紀のアジアを展望して日中両国がどういう役割を果たすべきか。こういうことを考えることは、大変時宜を得た、いい企画だと思います。
 冷戦が終わった後、世界は多極化したと言われ、さまざまな変化が生じています。地域的にまとまっていこうというリージョナリズムが出てきたり、ナショナリズムが頭をもたげてきている所もあれば、グローバリズムと称して、物事は世界的に解決していこうという動きもあります。それらが牽制したり、時には協力しながら、新しい秩序を求めている段階にあると思います。
 日中両国の関係は、総論については単純明快で何の疑念もありません。日中共同声明と日中平和友好条約ではっきりと規定されています。
 共同声明は日本の戦争責任について、「日本側は過去において日本国が戦争を通じて中国国民に重大な損害を与えたことについての責任を痛感し深く反省する」と明言しています。それを前提に、中国は「中日両国国民の友好のため」に戦争賠償の請求権を放棄しています。
 共同声明のもう一つの柱は、「両国間には社会制度の相違があるにもかかわらず、両国は平和友好関係を樹立すべきであり、また樹立することが可能である」とし、「それがアジアにおける緊張緩和と世界平和に貢献する」とうたっていることです。いまだに体制が違うからつきあわないとか、援助しないとか、攻撃を加えるといった間違ったことが世界を乱しています。このように自分の国の体制や価値観だけを絶対視する思い上がった考え方を、共同声明が排除している点は大事だと思います。
 日中平和友好条約の中で重要なことは、日本も中国も覇権は求めないし、いかなる国または国の集団による覇権の試みに反対する、という反覇権の理念が明記されていることです。もう一つ、注意を喚起しておきたいことは、条約の期間が10年なのに、それを超えて永久に続く条約であるかのように両国が友好協力関係を重ねていることです。そこにあるのは、日中両国が争わないことが、アジアと世界の平和のために有益なのだという考え方です。これが日中関係の原点だと私は思います。
 ところが各論になると、残された問題があります。先日の日中共同宣言の中から、3点を提起します。
 第一点は地球的規模の問題です。人口問題、食料問題、エネルギー問題、環境問題、あるいは麻薬やエイズのような問題です。これらは国境の中だけでは処理しきれない問題で、これから日中両国がはたす役割の中で大きな部分を占めると思います。
 第二点は次の世代の問題です。今回の共同宣言に付属して「青少年交流のための協力計画」が作られました。交流することによって、違いを含めて理解が深まり、そこに信頼関係ができます。世代交代に備えて、ここにあるような交流を実行することが大事です。
 第三点は安全保障の枠組みで、特に注目すべき点が三つあります。一つ目は反覇権で、先ほど述べました。二つ目は反核です。最近の国連総会で中国の外交部長が、中国は核廃絶をめざしている、核兵器を先制使用しない、核を持っていない国に対して核兵器を威嚇としては使わない、と強調しました。日本と中国はもっと勇気をもって核兵器廃絶のために努力する必要があると思います。三つ目は不安定要因です。東アジアでは朝鮮半島、台湾海峡、それに日米ガイドラインの問題です。
 朝鮮半島は本当に不安定要因なのでしょうか。どうも、アメリカは軍事戦略的な考慮から極東地域に不安定要因があった方がいいと考えているような面があります。北朝鮮からアメリカに戦争をしかけることはあり得ないと思います。なぜなら韓国はいわゆる太陽政策で、北朝鮮との平和共存へ政策を変えていますし、日本を攻撃すれば、アメリカが反撃して北朝鮮はたちどころに負けてしまうでしょう。日本には何十万という朝鮮半島出身の方がいるのですから、この人たちに危害を加えることになります。それに日本からまだ戦争賠償ももらっていません。日本を攻撃しても得るところはなく、そんな愚かなことをするはずがありません。
 日米ガイドラインの問題は、日本側から誤解を招く不規則発言が出て、むちゃくちゃと言っていい状態です。本来は日米間の問題で、第三国に対するものではないはずです。
 台湾海峡の問題は、日中共同声明の第2項に、中華人民共和国政府は中国における唯一の合法政府とうたい、第3項に、台湾は中華人民共和国の不可分の領土の一部であるという中国の立場を、日本は十分に理解し尊重するとうたっています。この共同声明の立場をきちんと守れば、何の疑念もありません。
 北朝鮮が不安定要因だというのは米朝間、台湾海峡の問題は米中間、ガイドラインの問題は日米間の問題です。どこをとっても必ず「米」が入っています。安全保障の枠組は米国を抜きにして考えられないというのが現実です。そうすると、21世紀のアジアにおける安全保障の枠組みは、二国間だけでごちゃごちゃ言っていても片づきません。少なくとも日本と中国とアメリカが、十分に話し合って解決の方法を考えなければならない問題です。
 日中平和友好条約は、その期限が10年であるのに、いまだに子々孫々の基礎として存在していることの根幹は、おわびを言うとか言わないとかということよりも、もっと深いところにあります。それは日中不再戦です。日本と中国は再び戦争をするような愚かなことはしない。これが日中間の原点です。

  (文責・編集部)